それから、あおいとの会話を録音するようにお願いをした。
「すみません。でも、これは本当に最終手段。こうなる前に、オレがあいつの口から話させます」
「……本当にこれが、あおいちゃんを助けることができるの?」
「ちょっと、これは……」
「……それしか、方法がないんじゃろう」
「もしかしたらあるかもしれません。でも、オレが思いつくのはこれくらいです」
オレみたいに歪んでない人があおいのことを助けたいと思ったら、もっと違う方法があったのかもしれない。でも、オレにはこれしか思いつかないから。
「最低なことをお願いしているのは承知です。でもオレは、あいつを助けたいがためにしてるんで。これを悪用するとか、そんなことは決してありません。……あいつを。一緒に助けてやって欲しいんです」
「……うん。わかったわ。ひなたくん」
初めて会ったようなオレのお願いを、三人が小さく笑いながら答えてくれる。
「君には、きさちゃんのことで助けてもらったんだ。それにあおいちゃんにも。……彼女のためなら、ぼくらも手を貸すよ」
「にしても、手っ取り早く聞いたらダメなんかのお」
「はい。それだけは決してしないでください。そうしたらもう、あいつはオレらの前には現れないかもしれない」
「わかったわ。あまりあたしたちでは引き出せないかもしれないから、それだけは言っておくわね」
「はい。ほんの少しでもいいので十分です」
「他にした方がいいことはあるかい?」
「あ。……それじゃあ、もう一つお願いを」
お言葉に甘えて、三人にもう一つお願いをした。
「わかった。きちんと任された仕事は熟すよ」
「ありがとうございます。あとできれば、それを『どうしたのか』だけ。あのアドレスに送ってもらえますか?」
「ひえ……っ」
「あ……」
「ああ、ごめんねひなたくん。気にしないで? あたしから送っておくわ。あの録音と一緒に」
「あー。……何かすみませんイブキさん。ほんと、もうあんなことしないので。どうか警察に連れて行くのはあいつ助けてからで」
「い、いやいやいや! 大丈夫だから! 連れて行ったりしないからね……!?」
そうして、ほっとしたはいいものの、やっぱりあんなことしていたこともあって気が引けてしまう。
「本当に、こんなことをお願いしてしまってすみません。迷惑メールを送ってきたような犯人から、一緒に犯罪者になれって言ってるようなものなのに……」
「え。だ、大丈夫? 一気にテンション低くなったけど……」
「いや、もう。ほんと申し訳ないなと思って。何で生まれてきたんですかね、オレ」
「え。ど、どうしたんじゃこの子は……」
「ひなたくん。電話でも言ったけど、あたしたちはあなたにとっても感謝してるのよ?」
「……あんなの、迷惑なだけですよ」
「いいえ。あなたのおかげで、自分の子どもが元気で生きてることを知れた。あなたのおかげで、あたしたちはあの子に会うことができたのよ? 二人一緒にね?」
「……仏様、みたいですね」
「え。あたし糸目じゃないわよ」
「これツバキさん。仏様になんてことを!」
「まあ父さん、落ち着いて……」
「みなさん本当にやさしくて。温かくて、綺麗で。……自分に、反吐が出そうです」
「ひなたくん……?」
「罪を。一緒に背負わせてしまって、すみません。オレだけじゃ……。味方を、つけないと……」
「……感謝してるって言ったでしょう? あなたにお礼をしたいって思ってるって。だから、あたしたちにはあなたのお願いを拒否なんてしないわ」
「でも、こんな最低なお願い……」
「でも、そうすることでしかあおいちゃんを助けられないんだろう?」
「……オレ以外の人が考えたら、もっとマシな方法があったのかも知れません」
「でも、考えるには知らんといかん。でもでも、それはできんのんじゃろう? じゃから、アオイさんを助けられる方法を考えられるのは、お前さんだけなんじゃよ」
「……。本当に、これでいいのかな」
「それが正しいと思うなら貫きなさい」
「ツバキさん……」
「思うことは大事なことよ? 成功へと導いてくれるはずだわ」
「……はい。ありがとうございます」
ほんと、オレのまわりには、やさしい人ばっかりだ。
……また、大切な人ができた。また、『オレ』を隠さないといけない人が。



