「あおい……」
その日記に、怪盗は存在しなかった。上手く、あおいが後夜祭のことは嘘を連ね、生徒会のみんなと一人ずつダンスを踊ったことになっている。
「……ばか」
そのあとに、かわいかったから花とストールを買っているところがあった。そんなこと。していないのに。
電話を掛けたことも、なかったことになっている。上手に時間を調整して、かなりの人物を動かしているようだ。
「よっぽどアオイに。バレたくなかったんだね……」
それだけあおいにとって、怪盗の存在が大切なんだ。
「……いった……」
ジクっと痛む胸を押さえる。
ううん。こんなの、気のせいだ。……これでいいんだから。
「……え。シオンさん何襲ってんの……」
それからいろいろ読み進めていくうちに、メールの内容がわかった。
「《ダレニ、恋ニ落チルノカナ?》ねえ……」
アイとレンが、何を聞いてあいつにそう送ったのかはわからない。恐らくはユズたちの会話だろうけど。
「……それを聞かれていることが、怖くなったんだろうな。きっと」
それで倒れてしまったんだ。完全な恐怖心で。
「レンの奴も、アイもカオルだって、一緒に助けるよオレは」
どうやら今日のことはまだ書いていないみたいだった。シントさんに関してはマジでぶっ飛ばすって思ったけど、パタン……と日記は閉じて、わからないように元あった荷物の中に入れた。
「それから……っと」
もう一つ。アルバムを見て、「あ、ハルナがいる」と、あの頃を思い出しながらページを捲っていく。
「……みーつけた」
それは、トーマが撮った花畑の写真。その端に、小さく写ったあおいの写真。
「ごめんけど、これはオレが拝借するからね」
アルバムから一枚それを抜き取って、大事にとっておく。
「……時間。中途半端だな……」
時刻は2時を回っていた。もう、この時間はあんまり寝られない。
「……3時半まで、あおいの部屋で日記でも読もっと」
アオイ曰く帰ってこないって言ってたし。あと一時間半だし。
それから時間になるまで日記を読んで、一旦悲惨なことになっている離れに着替えを取りに行って、着替えてからリビングへ向かう。
「あ。おはようございます」
「おはよう。どうせ寝ていないんだろうね、君は」
そう言うナツメさんが、オレに栄養ドリンクを渡す。
「車の中では少し寝なさい。起こしてあげるから」
「……すみません。ありがとうございます」
それから、ナツメさんの車に乗ってすぐに眠ったオレは、西園寺へ向かったのだった。



