すべてはあの花のために❾


 そう言ってオレとアオイは、やっとちゃんと服を着た。


「……そうか。みんな来てるんだね」

「心配でね。でも邪魔はしないから」

「うん。……ありがとね」

「……アオイ? して欲しいことは?」

「……添い寝?」

「マジか」

「寝ながらぎゅってして? ちょっとだけでいいから」

「……うん。いいよ」


 毛布に包まって、アオイの体を抱き締めてやる。


「……あったかい」

「それはよかった」

「……ひなた」

「ん?」

「……あのさ。葵の部屋、わかる……?」

「え? うん。わかるけど……」

「日記。持って来てるの。最近のだけ」

「え」

「ひなたなら。……見てもいいと思うから。どんな感じでやりとりしてるか。……見てみて」

「……わかった。それじゃあ遠慮なく」

「あおい、朝日が昇るまでここで稽古するらしいから」

「マジか。わかった。……あ、あとさ」

「ん……?」

「アヤメさんたちからアルバムもらったでしょ。いっぱい」

「……? うん。もらってた」

「それ、見てもいい?」

「うん。どーぞ」

「ありがと」

「……ひなた」

「何?」

「わたしが暴走したらさ。……今度は。気絶、無理矢理させて」

「……しないよ絶対。ただ、止めはするけど」

「そっか。……ありがと」

「取り敢えず削ぎ落としてきて。あいつが泣くから」

「はー……い。……すう……」

「いつも思うけど、これのどこが寝付き悪いんだか……」


 眠ってしまった、アオイか。それともあおいかわからない彼女の体を、一度ぎゅうと抱き締めたあと、そっと毛布から出る。


「おやすみあおい。おやすみアオイ。……無理は、しないようにね」


 あおいにしっかり毛布を掛け直したあと、ぽんぽんと頭を撫でて道場を出て行った。


「(ま、アオイにはああ言ったけど、一番欲求を落とすべきはオレだよね、うん)」


 あおいの温度ややわらかさ、香りがまだ、自分の体に残っている。


「(やっぱアオイって、オレの願いを間接的に叶えようとしてるんじゃないかな。怖いわ~)」


 まだ今はその感触を忘れたくなくて、西園寺から帰ってきたらお風呂をいただこうと思う。それで綺麗さっぱり忘れよう。今は、もう少しだけ余韻に浸りたい。


「(失礼しますよーっと)」


 堂々とあおいの部屋に入って、鞄を漁る。断じて下着泥棒ではない。


「(……これか)」


 日付は、文化祭初日のものからになっていた。ほんとについ最近だ。でも、この日記ももう終わりに近い。


「(結構分厚いのに……)」


 そう思って中身を開いて、オレは目を剥いた。


「(誰が何喋ったとかも、書いてるわけ……?)」


 自分だって覚えてもないようなことが、そこには記されていた。


「(これは。すぐに一冊終わるわ……)」


 ぺらぺら捲っても、きっと進んだのは一日ではなく一時間。下手したら数分だろう。


「(すごい時間かかるねこれは。……だから、帰ったらこれをしないといけないんだ。生徒会に入るのを嫌がるわけだよ)」


 ザッと斜め読み。ここ最近のことがいろいろ書かれていたけれど……。