「……あ。ヒナタが葵を襲ってる」

「え。……あ、アオイ?」


 しかし、ヒナタと自分を呼ぶ目の前の彼女の瞳は黒い。


「……ああ、これ? 葵カラコンしてんの。黒の」

「え? なんでそんなの……」

「ウサギの家から帰ってずっと着けてる。もう、赤い瞳は見せたくないんだって」

「……そっか」

「ていうかさ、もしかして温めてくれてた? 葵のこと」

「え?」

「だって、ヒナタは葵のこと、襲ったりしないでしょ?」

「(襲いかけたなんて余計言えないわ……)」

「え。襲ったの?」

「……まあ、正直ちょっと暴走しかけたよね」


 正直に言おうと思って、胸につけた新しい印を指で突く。


「ありゃ。ほんとだね。またついちゃったか」

「あ、あれでしょ? 後夜祭でつけられたってやつでしょ? それは見当たらなかったから、上手に消してるんだね?」

「いや、昨日シントにもつけられてさ」

「はあ?! どこ。てか何されてんの。ていうかシントさん何してんの。絶対コロス」


 アオイの肩を持って大きく揺らす。


「ちょ、……あの。か、肩っ! 肩に……っ!」

「……マジだし。意味わかんないし」

「あれ? てっきりこれ見てつけたのかと思った」

「いや、ごめん。暴走した。今めっちゃ反省してる」

「……そうか。じゃあ、存分に反省してください。勝手に増えててビックリすると思うので」

「はーい……」


 よしよしと、何故かアオイが頭を撫でてくる。おかしいよね、されてるのに励ますって。


「……何してて倒れたの」

「あれ? どうして電話しなかった、とか聞かないんだね」

「どうせ、言いたくなかったんでしょ。一人になりたかったから、アオイもオレには言ってこなかったんだろうし」

「……まあ、わたしも反省してるんだ、実は」

「は? こいつが一人でここまで来た理由は聞かないけど、アオイは何でオレに連絡しなかったの?」


 そう聞くと、ほんの少しアオイの顔に影が差す。


「……アキラが起こしに来た時にね」

「やっぱりアオイが出たの」

「うん実は。……それで、軽く暴走しちゃったのよ。だから反省」

「は? 暴走? ……何。アキくん殴ったの?」

「いや襲いかけた。いや、ちょっと襲った?」

「何やってんの……!?」


 またアオイの肩を掴んで大きく揺らす。


「いやいや~……。あはは! まあ欲求不満も爆発するよね! いつかは!」

「お前こそ修行しろ」

「お、おう……。わかりました」

「はあ。まあ泣いてた理由もわかったてよかったよ。今は? ちゃんと笑えてる?」

「うん。……強くなるためにね。修行したいんだって」

「そっか。まあ詳しくは本人から聞くよ。取り敢えずアオイは、欲求を削ぎ落としてきてね。よくわかんないけど」

「おう! がんばるっ!」

「それで? 今はどうしたの」

「あー。……これも、あんまり言えないんだけど」


 アオイはオレに、きっちり封をした手紙を見せた。


「手紙をね? 書いてたの。必死に」

「……まだ宛名とかは書いてないんだね」

「うん。誰宛かも言えないの。ごめんなさい」

「なんで謝るの? こいつが言いたくないんなら、オレも知るべきじゃない」

「いやいや、一番知られて嫌なこと知ってるじゃん?」

「それとは直接関係あるの? なら無理矢理にでも聞くけど」

「うーん。これは、葵の問題だけど別に葵を助けるのに必要なことではない、かな?」

「うん。だからさ? 聞かないよ。ここに来た理由も、こいつから聞きたいから」


 必死に書いて書いたんだ。大事な人に、なんだろう。……聞けないよ。見られないよ。そんな大事なもの。


「……ありがと。ヒナタ」

「あんまりアオイの時間以外に出てたら不味いから、もう寝な?」

「そうだねー」