すべてはあの花のために❾


 それからオレらは、ご飯ができるまでにお風呂を先に済まさせてもらった。そして、トーマたちが帰ってきたら大慌てで離れに帰ったけど、それまではとっても美味しいご飯を、お腹一杯食べさせてもらった。


「お前ら、絶対邪魔すんなよ」

「葵の邪魔はしない」

「ていうかなんで俺らよりも早く着いてんだよ」

「理事長の伝だよー」


 杜真が離れまでやってきたと思ったら、めちゃくちゃ文句を言ってきた。


「俺と葵ちゃんの愛の巣に……っ」

「いやいやトーマ、アヤメさんとナツメさんもばっちりいるでしょうよ」

「俺と葵ちゃんと一緒にお風呂に入る計画どうしてくれるんだよ!」

「させねえよ!」

「俺と葵ちゃんと一緒にお布団に入る計画も……っ」

「ねえおうり? とーまクンのベッド、外に出してこよっかあ?」

「(こくりっ)」

「葵ちゃんを完食する計画を……っ」

「あっちゃんに蹴り飛ばされてしまえ」

「せめてちゅーはする!」

「トーマ、あいつ今何やってんの?」

「え? 今母さんと一緒に片付けしてる」

「あ。だったら今のうちにお布団取ってきた方がいいかもね」

「うん。それ言いに行けってパシられた」

「そっか。『お風呂先にもらってすみません』って、ナツメさんとアヤメさんに言っといてー」

「俺はいいんかい……」

「はいはい。トーマは手伝いに寄越されたんでしょ? ほら、一緒に布団運んでよ」

「なんで知ってんだよ……」


 そのあとトーマを思い切りパシって、布団を敷き詰めた。


「トーマいつまでここにいんだよ」

「母さんが呼びに来るまで」

「……? 自分の部屋じゃないのか」

「ここでみんなが出てこないように見張っとけって」

「(多分、今二人があおいと話をしてるんだろうから寄越したんだろうな。オレも、トーマがここにいるんなら安心だし。流石、よくわかってる)」


 それからしばらく経ってから、アヤメさんがトーマを呼びに来た。


「杜真、葵ちゃんが待ってるわ。リビングにいるわよ?」

「よし! 行ってくる!」


 ちょっと緊張しながら、でもどこか嬉しいような。……でも暗いような。わけがわからない顔をしながらトーマが出ていったけど、それをみんなが止めようとする。


「まあみんな、トーマの大人への階段を見守ってあげて頂戴」

「それこそさせないから!」

「(こくこく!)」

「あっちゃんが心配だ……」

「……あ。そうだ。みんなにね、見せたいものがあるのー」


 そう言ってアヤメさんが取り出したのは【杜真が葵ちゃんにお姫さま抱っこされる偽結婚式】と書かれたDVD。


「……これ。見たくない?」

「見たい!」

「(こくこく!)」


 そしてまんまとアヤメさんの術中にはまったオレらは、最初から余すところなく見ようと、キサとトーマのぶっ壊された結婚式を見始めた。


「日向くん。それが見終わってからでいいわ。少しだけ話をさせて欲しいの」

「……それじゃあ、あとでお二人の部屋に伺います」

「うん。イチャついてたらごめんね?」

「オレが行くまでは我慢しててください……」

「はーい」


 大丈夫かな。気まずいことにならないといいけど……。
 それからアヤメさんが出ていって、やっぱりトーマとあいつが気になったから、こっそり覗きに行った。