すべてはあの花のために❾


「(でも、寝かせないと……)」


 オレは行けないから……と思って、カナを蹴り飛ばす。


「ちょ。なにー……?」

「カナ。今あいつ、一人でどっか行ったんだけど」

「え? アオイちゃん……?」

「うんそう。カナ、今がチャンスだよ」

「……へ?」

「いや、聞いてないでしょ? 返事」

「うん。まあいろいろバタバタしてたし」

「今が聞けるチャンスじゃん。行っておいでよ」

「んーそっかー……。じゃあ、OKもらったら一緒の布団で寝るねー?」

「うん。そうして」

「え。ひ、ヒナくん?」

「まだ夜中なんだから、あいつにも寝ろって言っといて。うろちょろされると目が覚めるから、無理矢理寝かせてよ」

「あーはーい。わかったよー……」

「もしかしたらベランダにいるかもしれないからさ、外寒いから布団持って行ってあげなよ。それだけで好感度上がるかもよ」

「いやいや。ヒナくんの好感度こそ上げなよ、アオイちゃんの中で」

「え。いやいいし別に。眠いんだから、さっさとあいつ寝かせてよね」


 ……心配だから寝かせたいって正直に言えばいいのに。
 言ってないつもりでも、実は伝わってしまっているのを、彼は知らないんだろうなと思いながら、カナデは毛布を抱え、部屋を出たのだった。


「カナデくん。わたし、今日は寝ないからっ」

「だーめ。俺と一緒に寝よ?」


 カナがあいつを抱えて帰ってきた。怖がってるのか、寝るのを拒否している。
 でも、カナがなんとかあおいを寝かしてくれた。みんなも、話し声に起きたのか二人を見守っていた。……まあ、カナが余計なことをしたから思い切り睨んでやったけど。どうやらカナも、あおいの様子がおかしかったことに気がついたらしい。

 それから時刻は6時。みんながむっくりと体を起こす。


「(……よし。カナから離れてる。えらいあおい)」


 みんなもそう思ったのか、ガッツポーズをしていた。


「(ネコみたい。かわいい……)」


 ころんと丸まってる姿がそう見えて、みんなもかわいいと思ってるのか少し顔が赤い。
 ……そっか。みんな寝顔見てないんだっけ。よかったね、念願叶って。

 それから、みんなであいつをもう少し寝させてやろうということになって部屋を出た。どうやら今日、あいつは学校を休むらしい。何やら家の用事みたいだけど……。


「(あおいに家が頼み事? それならアオイにでしょ)」


 どうしてそんなことを言ってきたのかはよくわからなかった。

 カナがどうやら、やっぱりあいつの様子がおかしいことに気がついたらしい。でも。


「葵が言いたくなかったのなら、この話はするべきじゃないな」

「そうね。アタシもそう思うわ」

「ひとまず、あおいチャンが寝られてよかったね」


 朝食の準備をし出した三人は、やっぱりあおいのことを何かは知ってるんだなと思った。


「「「「「じゃんけんぽん!」」」」」
「♪~♪」
「(パシャリ)」
「いや、だからさ……」


 あいつを起こしに行くのを、みんなで決めていた。
 まあ、今回はちょっと無理しちゃったけど結局は寝たし、今は7時前だ。アオイの時間じゃないから大丈夫でしょ。


「よし! 葵を襲って――じゃなかった、起こしてくる」


 アキくんがルンルンで部屋に入っていったけど、そんなこと言ったから気が気じゃなかった。

 しばらくしたら、部屋の中からなんか怒ってる声が聞こえた。……何があったんだろうか。まさか、アキくんが本当に襲ったんじゃ……。
 そう思ってみんなして見に行ったら、あいつが小さな体を。……尋常じゃないほどの震えを、涙を目に溜めながら抑えようとしていた。


「(……何。何があったの……)」


 ……まさか、アオイが出たの? いやでも、ちょっとだけど寝たし、そんなことは多分ないはず……。
 そんなことを思ってたら、あいつが自分の荷物を引っ掴んで、涙を必死に堪えながら勢いよく部屋を出ていった。