すべてはあの花のために❾


「もらってくれますか?」


 あいつがオウリの手を自分の胸に置いて、そう笑顔で言ってるのを目撃して、みんなは大慌て。こればっかりはしょうがないと思うわ。
 そんな現場でもオレは慌てず冷静に写真を一枚、パシャリと撮るけどね。


「……ん。よく撮れてる。オウリがあいつを訴えた時、少しでも証拠残しとかないと」

「いや日向よ、あんたはそれでいいんかい」

「あ。……ちょっとー、ブレたじゃーん」

「いや、それあんたの手が怒りで震えてるからじゃん……」


 冷静冷静。みんなが慌ててるところは、オウリをあとでぶん殴ってやろうと思いながら写真を連写した。
 でも、ほとんどぶれてたね。腕落ちたかなー? 

 それから今日もお泊まりすることになった。どうやら、念願だった枕投げをしてめっちゃみんなはしゃいでた。
 オレは安定の撮影係ですぐに戦線離脱。みんな今日もそのまま爆睡してしまった。あいつが、みんなに布団を掛けてやってるのを、うとうとしながらうっすら目を開けて見てた。

 案の定、オレが起きてるにも関わらずあいつはオレにもやさしく掛けてくれて、最後何でか知らないけど頭を撫でられた。みんなにしてたんだけど、おかげで一気に目が覚めた。
 あいつが部屋から出て行くのを横目で見ながら、さっきの枕投げで撮った写真の鑑賞をした。……いい感じにチカが白目を向いてる。これは使える。

 きっと、エンジュさんと話をしてるんだろうな……と思いながらも、やっぱりあんまり寝てないのが祟ったのか、壁にもたれながら小さくなって寝た。


 時刻は3時。どうしても、この時間帯は眠たくても起きてしまうらしい。目を開けたら、あいつはまだ部屋にいなかった。


「(どうしたんだろう。エンジュさんと話してるのかな……)」


 でも、あんまり寝てないのはよくない。何をするにしても、それが一番無理に繋がるってアオイが言ってた。
 そう思っていたら、オウリがむっくり眠そうな目をこすりながら、トイレにでも行くのだろうか。入り口付近の壁にもたれ掛かってるオレに近づいてくる。


「あ。……オウリ、ちょっといい?」

「……?」

「あのさ、あいつがいないんだけどさ、もしかしたらエンジュさんと一緒に夜更かししてるのかも。夜遅いから寝るように言ってくんない?」

「………………(こくり)」

「え。トイレ行ってからでいいんだからね? 大丈夫? 行ける?」

「(こくこく……)」

「(大丈夫かな……)」


 覚束ない足取りだけど、部屋からオウリは出ていった。


「(よし。オウリに言われたら、流石のあいつも寝るでしょ)」


 そう思って寝る準備。これで大丈夫だと思って、布団を引き寄せ目を閉じる。

 そうしてしばらくしたら、ガチャリと小さな音が聞こえる。


「(……え)」


 あいつがオウリを抱えて帰ってきた。
 えー……オウリ爆睡じゃん。何しに行ったのー。バカなのー。

 そのあと、あいつはオウリに布団を掛け、歌を歌ったあと、小さく笑って部屋をまた出て行った。


「(……そうか。日記か……)」


 恐らく、病院から帰ったあとも書けてないんだろう。すぐ登校したに違いない。だから、きっとオレらの前で寝てしまったらアオイが出るんじゃないかと思って怖いんだ。


「(……書かなくて大丈夫とか、言えないよね)」


 もちろん寝ないことが一番の無理に繋がることもだ。なんで知ってるのかってなったら、オレがバレる。