すべてはあの花のために❾


 そう言ってオレが渡したのは、以前理事長に頼んで作ってもらった超小型の録音機器。マサキさんたちは、やっぱりそっち関係だし、ボイスレコーダーとか持ってたけど、ない人にはこれを渡せって言われた。……ま、理事長は、エンジュさんに渡すようになると思うって言ってたけどね。


「これ、あいつと話す時にその場所のどこか見えないところに設置してください」

「うげ……」

「あ。それだったらオレが設置しましょうか?」

「いや、なんかすげえ罪悪感だなと」

「……エンジュさんは何も悪くないですよ」

「ヒナタ……」

「全部オレがしたことです。エンジュさんは何も知らない。それでいいんです」

「ばーか。……ちゃんと俺も背負ってやるから、そんなつらそうな顔すんじゃねえ」


 ぽかっと殴られたけど……。オレ今、そんな顔してたのか。


「ありがとう。ございます」

「ほいほい。それで? どうやって設置するんだ」


 そう言われて、オレはベランダの手摺りの裏側と、ベンチの裏側に設置した。


「取り外す時に、うほっ! って言いながら壊さないでくださいね」

「言わねえよ。壊さねえようには頑張るけどよ」

「オレの住所これなんで、ここに送ってください」

「ん? ……引っ越したのか?」

「いえ、今ちょっと別居中なんです。うちの親」

「……なんかあったら言えよ」

「はい。その時は遠慮なく」


 こんなこと、誰にも言えない。
 ……こんな汚いオレなんか。誰も一緒にいたいなんて。思ってくれないんだから。


「いい働きを期待してます。駒さん」

「は? こまさん?」

「いえ。エンジュさんはたった今、オレの駒に降格しました。おめでとうございます」

「全然めでたくねえ」

「きちんとわけは話します。今根掘り葉掘り聞かれても、オレからは何も言えないので」

「……お嬢ちゃんから聞いてもダメか?」

「なんでそんなこと知ってんだってなるでしょ。ダメに決まってるでしょゴリラ」

「俺の扱い……」

「このことは、誰にも言わないでください。オレがこんなことしたことも。もちろんオウリにも」

「ああ。わかってるよ」

「あと、その機械一回しか再生できないんで、聞き直しとかしないでくださいね」

「そもそも再生の仕方がわかんねえよ」

「それじゃ、よろしくお願いしますね駒さん」

「へえへえ」


 部屋に戻ったら、まだあいつはオウリの部屋から帰ってきてなかったようだった。そう思ったら、どんって結構大きな音がした。


「(え。ど、どうしたんだろう……)」


 みんなもそう思ったのかキョロキョロしてたので、エンジュさんを早速パシって様子を見に行かせたけど、すぐに帰ってきた。


「え。何があったんですか?」

「い、いや。俺はあいつを応援してるからな……」

「……?」


 みんなもどうしたのかと思って見に行こうとしたら、エンジュさんが「やめといた方がいいと思うんだがな……」って言ってたから、余計焦って見に行った。