「おうっ! 待ちなさいおうッ‼︎」
上手く呼吸ができないオウリを、あいつが引っ張って女性から距離を取る。
「(やっぱり……)」
急に叫びだした女性を抑えていた人の中に、エンジュさんがいた。
「(壊したって。アオイ言ってた……)」
と言うことは、オレらもまだ会ったことなかったけどあれが――――……。
「(オウリの、母親)」
名前だけは知ってる。花梨。スマホのデータに載ってた。
それから、バスで最寄り駅まで帰ってきて、あおいとは別れたけど。
「えっ? ちょ、オウリっ?」
あおいの姿が見えなくなった瞬間、オウリがいきなり駆けだした。流石ウサギなだけあって足は速いよね。これぞ、脱兎の如くってヤツだ。
そんなオウリを追いかけて着いた場所はあいつのマンション。ここのマンションは、エントランスから中には入れてもエレベーターで引っかかる。だから、エントランスでオウリを必死に呼び戻そうとしたんだけど、声を掛けても全然反応がない。
「あのさ、アオイちゃんに頼ってばっかりだからさ、俺らで頑張ってオウリに声掛けてあげない?」
あおいに救ってもらったばかりのカナも、本当に成長した。
「そうね。あっちゃんはひとまず休憩ってことで!」
「何があったのかわかんねえけど、ちゃんとオウリに会って話聞いてやろう」
「ああそうだな。今桜李を一人にしたらいけない」
「ええ。……桜李を、助けてあげましょう」
そう言ってみんなで一致団結してたけど。
「(でも、これはあいつが叶えないと意味がない。じゃないと、あいつは救われない……)」
それに、あいつも気にはなってたけど、一旦帰ってから学校に行くんだ。ここの場所は知らないし。
「(……でも、オレらだってオウリの友達だから)」
オレは、アカネに声を掛けることにした。
「アカネは学校に行って、あいつのそばにいてあげてよ」
「え? で、でも。おれもおうり心配なんだけど」
「うん。わかってる。アカネの分まで、みんなが必死にオウリに声掛けるよ」
「え。お前は?」
「だからさ、あいつは逆にみんなが来てなかったら不安になると思う。しかもここの場所知らないし」
「いやいや、また無視ですか」
「だから、アカネはあいつがもし気がついたら、ここの場所教えてあげてよ。それまではさ、みんなが頑張るから」
「いやいや、だからお前はあー……?」
「……そっか。うんっ。わかった! みんな頑張ってね! でもあおいチャン多分気がつくからさ、それまでになんとかしてみようよ!」
そう言うアカネに大きく頷くけど、さっきからオレが無視していたチカはムスッとしていた。
それから、どうやってオウリを部屋から出すかを考えた結果、あんなことをしてた。オレは基本撮影係なので、みんなの阿呆な様子を見てた。
というのはまあ半分冗談で、ある場所に一通メールを送った。相手はエンジュさん。
今日は絶対に仕事を休んで病院で待機。車も準備しておけって言った。これでまあ、多分あおいもエンジュさんが関係者だってことに気がついてたら、彼を使ってここまで来るだろう。



