「……さっき、レンくんがいたの」

「「……!!」」


 オレは急いで追いかけようとしたけど、先生に止められた。どうやらもういないらしい。


「九条くん。レンくんも葛藤してるみたい。こんなことしたくないって、これを私に渡してきたわ」


 それは、あいつ宛の赤い封筒だった。


「さっきのメールも、苦しそうに自分が送ったんだって言ってたわ。アイくんと今日、あなたたちのことつけてたって」

「……そう、ですか」


 レンは、あいつにそんなことしたくないけど、せざるを得なくって。でも苦しくて。それでこの手紙は、先生に任せることにしたのか。


「……中身、見ていいですか?」

「ええ。どうぞ」


 先生に借りて、オレはその手紙を読んだ。


「……ま、普通に読んでもいい気はしないですけど、あいつが読んだらもっと嫌でしょうね」

「そうね」

「レンくんも、ご家族や潰された会社の人たちを人質に取られているんですう。他にももしかしたら誰かいるかもしれませんが、少なくとも」

「……そう」


 やっぱりレンは、悪い奴なんかじゃなかった。オレも、ここずっとあいつのこと見てたんだから。課題写させてくれるし。


「オレは、レンも。それからアイも。こちら側に引き入れますよ、必ず」

「九条くん……」

「ぼくもお手伝いしますう」

「うん。取り敢えず、カオルはもう今日は帰って」

「ええ……!? どうしてですう……!?」

「あいつが起きて鉢合わせたらそれこそどうするの」

「もう一回アレを」

「使わせないから……」

「むむっ」

「連絡先教えてよ。それからアイのも」

「レンくんはいいんですう?」

「一応知ってるんだけど。……じゃあ、レンの連絡先も一応」

「え。知ってるならいいじゃないですかあ」

「二代持ちとかじゃない?」

「はい。一つしか持ってないはずですう」

「だったらいいや。確認だけさせて? まだ一回もレンと連絡取り合ったことはないから正しいかどうかね」

「はいー。アイさんのがこれで、レンくんがこれですねえ」

「レンは……間違いないか。アイも……うん。OK。ありがとうカオル」

「いえいえ~。何かあれば、棋士さんに連絡したらいいですかあ?」

「そうだね。進展とかあれば。そっちの状況は知っておきたい。先生全然くれなかったし」

「根に持ってるわね……」

「わかりましたあ! それならぼくとコズエさんの愛の進展を」

「それはいい」

「愛にもなってないでしょうが!」


 先生のよくわからない突っ込みを聞いたあと、カオルは先生にキスをぶちかまして嬉しそうに出ていった。


「オレのこと、アイやレンに言わないでって言っておいてくださいね。直接話したいんで」

「ええ。わかったわ……」


 先生が頭を抱えている。ひとときの休息だ。
 帰ったら……まあ、頑張って。