それから先生がお手洗いに席を立った。それには、珍しいことにカオルが付いて行かなかった。
「え。トイレまで一緒に行くとか、あなた変態ですか……」
「ごめんけど、あんたに言われたくない」
何でオレが蔑んだ目で見られないといけないの。意味わからないんだけど。
「……それで? オレに聞きたいことあるんでしょ」
「はいー。実はそうなんですよお」
そう言って、カオルは膝を突き合わせてきた。
「(……近っ)」
「あなた、コズエさんのこと好きなんですか」
「そんなことで膝詰めてくるわけ?」
「ぼくにとっては重大なんですう!」
そう言ってくるカオルは、マジで言ってるらしい。慌ててるから。
「いや、別に好きじゃないし」
「ほんとうですかあ……!?」
「そういう恋愛的なものはないよ」
「そうですかあ~……」
そう言って離れるかと思ったら、まだ向き合ったままだ。
先生帰ってきたらどうするの? 先生からしたら大喜びだろう現場だけどさ。
「あなたの、目的は何なのでしょうか」
「……目的?」
「ぼくは、コズエさんにはつきますけど、ハッキリ言ってまだあなたを信用はしてません」
「……ま、だろうね」
「ですが、その目的が同じかどうか。方向が同じなら手を貸すと言ってるんです」
こいつも人質に取られてるのにも関わらず、勇気を出してオレにそう言ってくれてるんだろう。ま、先生に惚れたのもあるだろうけど。
「オレの最終的な目標は、あいつを幸せにしてやること」
そう言って、目線であおいを見る。まだぐっすり眠ってるみたいだ。
「……ああ、彼女がお好きなんですか」
「間違って欲しくないのは、オレがあいつを幸せにはしないということ」
「……というと?」
「あいつが幸せなのを、隣でなくていいから見ていたいってこと」
「……あなた、それでいいんです?」
「これがオレの幸せだから。あんたにとやかく言われたくない」
「……まあ、別に他人に興味ないんでいいですけどお」
「あ、そう……」
「でも、そうなると方向も全然違いますね。なのになんでコズエさんはあなたの駒なんですう?」
「全然じゃないでしょ。あいつが幸せになるためには、あそこを出ないといけない」
「……出たとしても、彼女は名前を呼ばれないと枯れますよ」
「あんたも知ってるんだね」
「ま、彼女を枯らす上で、そんな話をされましたからねえ……」
「……誰に?」



