アオイに言われていたから、オレは対処できた。絶対に吸い込まないようにハンカチで口を覆って、急いで扉から病室を出る。
「……あれえ?」
「九条くん?」
「……なんですか」
カオルがシュッと振りかけた瞬間。コズエ先生はダッシュで部屋を飛び出していて、カオルも振りかけ終わったら出て行っていた。オレもそのあとに続いて出たんだし。
「ダメじゃないですかあ。ちゃんと吸い込んでもらわないと」
そうしてこっちに小瓶を向けてくるけれど。
「残念だけど、効果はさっきの錠剤を入れて一分程度。オレに今振り掛けても効かないよ」
そう言うオレに、二人は目を見開く。
「……どういうことですかコズエさん。ぼく、こんな人がいるなんて聞いてないんですけど。なんですか、浮気ですか」
「浮気も何も、こっちとの方が早いわよ。どっちかって言ったらあんたの方が浮気相手よ」
「なんということでしょう!? それはそれでいい響きですうっ」
「「(ダメだこいつ……)」」
部屋の中で、バタバタと倒れていく音がする。なんか申し訳ないな。誰も助けなかったわオレ。
しばらく経ってから部屋を覗くと、みんなが床に倒れて眠っていた。
「はあ。ちょっと話したいことあるんですけど、先にこいつらを寝かせてやっていいですか」
「はあい。いいですよお」
「ごめんなさいね九条くん」
「何言ってるんですか。あんたらがするんですよ。ほら、さっさと座らせるなりなんなりしてあげてくださいよ」
「え。こ、コズエさん。こっちが本命なんです……?」
「ま、まあ。主人と言っても間違いじゃないわね……」
「どういうことですかあ……!?」
「いや、ちょっと語弊があったけど……」
「さっさとしろ」
「「はい……」」
それから駒をいい具合に使い、みんなをあおいが寝てるベッドにもたれかけさせたり壁際に寝かせた。オレは、その間静かに寝ている、全然起きなかったあおいのほっぺをつんつん突いて遊んだ。
「……なるほど。先生が直接接触できたのは、カオルだけなんですねまだ」
「ちょっとコズエさん。なんでぼくの個人情報をこの人に渡してるんですか」
「だってあんた敵だったし最初」
「それでカオルが先生に懐いて、家にいることがまあ嫌だ的なことを言ったら、先生に『必ず助けるわ』発言でコロっと落ちたと」
「ちょっとお! そんな棒読みじゃなかったですう! もうちょっとやわらかくってえ、そして凜としててえ。でもどこか不安げな感じが」
「ちょっと静かにしてなさい!」
先生はカオルの口を塞いだけど、「ぎゃ!」と言ってすぐに手を離した。どうやら舐められたらしい。
「カオルが言うにはもう一人。本当の息子のアイ? と、あとレンならこちら側に引き入れられるかもしれないと」
「そうなの。でも、二人には私も接触できていなくて。カオルの方が頑張ってくれてるみたいなんだけど……」
「ぼくはうちの家族がどうなろうといいんですけどお「――こら!」なにせ自分の命が一番大切ですからあ。……でも、アイさんを人質に取られてしまったら話は変わります」
「……人質、か……」
そういえば、花咲家の人たちや理事長、アオイも、人質を取られているから動きたくても動けないんだった。



