すべてはあの花のために❾


「まあまあ。そうしてミスコンにも出てもらえましたし、ぼくはコズエさんに説得されたのでえ。もう彼女に手は出しませんよお」

「……じゃあ、なんでさっき葵が倒れている原因を知っていたんだ」

「それは、ぼく以外の人がしたに決まってるじゃないですかあ。ぼくと同じような立場の人間が、ですけどお」

「(息子の線はない。あいつは、かわいそうだけど視線だけだろう。それに資料を消したことは言わなかった。だから、やったのは……)」

「だから、今までそんなことをしてすみませんって謝りたかったんです。もちろん彼女にもですけど、皆さんにもご迷惑をお掛けしてしまったのでえ」

「(……ま、そんなことで許さないと思うけどね。マジでみんなキレてるから)」


 こいつの話を信じてるのかはわからない。
 もし信じているなら、その矛先はどこかの家に。信じていないのなら、カオル自身に向けているはずだ。


「さてと。取り敢えずは謝れたということで?」

「……はい?」


 手をパンッと叩いてニヤニヤと笑うカオルは、先生のすぐ横に立つ。


「みなさあん? ちゃあーんと。よおーく見ておいてくださいねえ?」


 そう言われて「は?」と言う前に、カオルは先生の顎を引っ掴んで。


「……!?  んっ! ……はっ。……ちょ、かお……んんっ!」


 無理矢理先生の唇を奪った。しかも深いやつ。先生もめっちゃ抵抗してるんだけど、だんだん息ができなくて苦しくなったのか、力が入らないみたいだ。
 そんなキスを間近で見ていたみんなは、目を点にしていたり、顔を真っ赤にしてたり。


「はあ。……ま、こんなもんですかねえ」

「はあ。はあ……」


 完全に息が上がってしまった先生は、へにゃへにゃ~とベッドに倒れ込む。


「コズエさんかわいいすぎなんですけどっ!」

「(いやいや何。イチャこら見せたかっただけかよ)」


 みんな同じことを思ったに違いない。でも、そう言いながらカオルがごそごそと手を動かしていた。


「まあほんと、思い出されたら困るので。ちゃっちゃといきましょうかねえ」


 そう言って、何かの液体が入った瓶に錠剤のようなものを入れていた。


「(もしかしてあれって……)」

「……ッ、つ~~……っ」

「お、おいツバサ! どうしたんだよ!」


 カオルのその動作を見た瞬間、ツバサが頭を抱えだした。


「あらら。これだけでよかったんなら、コズエさんにキスしなくてもよかったですかねえ」

「ど、どういう意味よ……」

「(もしかしなくとも、これがトリガー……?)」


 そうして、カオルはオレらに向かってその液体を霧状にして振り掛けてくる。


「(――……! っ、不味い!)」