「怖いよね。俺がもし動いてしまったら。……もう、終わってしまうかもしれない」

「…………」

「レンもでしょ? だから、そんなことしてるんだ」

「(そんなこと…………監視?)」

「このままじゃいけないんだろうなってわかってるけど、でもどうするのが正しいのか。……カオルは、もう決めたみたいだけどね」

「え」


 一体、何を決めたんだ。どういう、……ことなんだよ。


「流石に遅くなりすぎたかな。これ以上いると工作してくれたカオルに申し訳ないし、そろそろ帰るよ」

「え」


 もっと、聞きたかった。わからないことが多すぎて……。


「それに、早く帰らないとあの人に勘付かれる」

「(あの人……?)」

「レン。あの頃に戻りたいね」

「(あの頃……)」

「それじゃ。またね」

「……はい。お気を付けて」


 そう言うと、ふわりと嬉しそうに笑って彼は塀を越えて校外へ出て行った。


「……どういう、ことだ……」


 わからなかった。取り敢えずだけど、恐らくあいつもレンも……もしかしたらカオルって奴も、敵じゃないかもしれないってことがわかったぐらいで。


「……だったら、十分勝機があるじゃん」


 敵陣の奴らが揺れているのなら、それに十分付け込んでやるし。


「もしかしたら駒がいい動き……いや。最高の動きをしてるのかもしれないな」


 未だ連絡の取れない彼女が、あの家で何かしているのではないか。


「……やば。取り敢えずキサにお願いして、髪落としてもらわないと……」


 待ち合わせの時間を過ぎてしまっている。案の定キサとの約束の場所に行ったらポカッと一発殴られたけど、なんだか嬉しそうな顔をしてたから、きっとキクと踊れたんだろう。


「……あれ。薔薇の花束もらわなかったの?」

「え? そんなのもらってないよ?」


 なんだ? じゃあ、あの人はキサ狙いじゃないってことだったのか。


「でも菊ちゃんから一輪もらったよー」

「え」


 それってさ。恐らくだけど、そいつから絶対奪ったからで。それを丸ごと渡したらバレるから、一本だけにしたんだって絶対。
 なんとまあ、大人げない。きっとコンテスト中ずっと嫉妬してたんだろうなあ……。


「それよりもあんたは? あっちゃんに会えたのか?」

「え? あー。あはは……」

「あ、会えなかったのか。わからなかった……?」

「(言えない。絶対に。バレる。オレがめっちゃ暴走したのが……)」

「この馬鹿たれー! 誰よ『オレにあいつがわからないわけないじゃん』とか自信満々に言ってた奴ー!」

「はははー。オレオレー」

「ばかばか! じゃあ、頑張って変装したの意味ないじゃないかー!」

「ごめんごめん。ありがとねー」

「もう! 知らない! あとは自分でやりなさい!」


 そう言ってキサはオレにドライヤーをぶん投げてきて、部屋から出て行ってしまった。


「(流石に言えないから。あそこまで暴走するなんてオレも思わなかったし……)」



 ちなみに、そのまま女子更衣室へと戻ったキサは…………。


「あっちゃん、誰にやられたんだ」

「名探偵燕尾服仮面だ」

「名探偵燕尾服仮面だってえ?! ……いや、誰よそれ」

「仮面着けてたからわからなかった」


 完全にタキシー〇仮面だと思っていたおかげもあり、葵にそんなこと言われても全くぴんとこず。別人の変な不器用男にやられたと思ったらしい。