すべてはあの花のために❾


 そして最後。


「あの。……は、初めまして」

『……!! ……アイ』

「はい。あの、なんて呼んだらいいですか……?」

『え? ……な、なんでも……』

「……じゃあ、はなさんって呼んでも?」

『……!! え。なんで……』

「先にあなたに。……はなさんとあおいさんに、きちんと謝罪をさせてください」

『え……?』

「俺は時々、あなたのことをこっそり見ていたんです」

『…………』

「いつかお話しがしてみたいと、そう思ってました。この家にも、まだ俺の心配をしてくれる家族がいるんだと。……そう、思えたので」

『……!』

「あの花畑に行ってることも知っていました。でも、いつも泣いていらっしゃったので、声を掛けづらかったんです。……そこで俺は、父に頼んでしまったんです。どうして俺は、あなたとお話しができないのか。会うことすら許されないのか。お花畑で会ってる女の子とは、楽しそうに話をしているのにと」

『アイ……』

「ごめんなさい。はなさん。……俺が。そう言わなければ」

『……アイ。そう言ってくれて、ありがとう』

「ごめんなさい。……っ。ごめん、なさい……」

『葵はね。気づいてなかったの。目の前の、涙を止めてくれた子にしか、気づけなかったの』

「え……?」

『……誰かいるなって。葵の中で、思ってた』

「……!」

『気づいてたのに、ごめんなさい。……でも、まさかアイだとは気が付かなくて』

「はなさん……」

『あの頃の葵にとっては、その子の存在が絶対だったの。……だから、その時はその子のことしか考えなかった。何もね? 考えたくなかったの』

「……うん。見ていて、十分わかってた」

『……アイ? わたしが葵に教えてあげてたら、また何か違ったかもしれない。……わたしも、ごめんなさい』

「そんな! はなさんが悪いわけないじゃないですか!」

『ううん。きっとあなたはやさしいから。ずっと抱えてたんだろうから、その分も。……ごめんね、アイ』

「……そう言ってくれて、ありがとう」

『それと。……アザミたちに、アイと話してって言ったことも』

「はなさんが言ってくださったんですね」

『でも。アイは嫌だって聞いて……』

「確かに、エリカさんや今の父と、あまり話したくはありませんでしたが……でも、そんなことよりも俺は、そんな些細なことを気に掛けてくれる人がまだ、この家にいるんだと。そう思えて嬉しかったんですよ」

『アイ……』

「だからはなさん? あの時は、そう言ってくれてありがとうございました。とても救われたんです。その、あなたの気持ちに」

『たった、それだけなのに……』

「うん。たったそれだけでも俺は、あなたのような人がいるなら、この家でもやっていけるって。あなたがいるんだから、頑張らなきゃなって。そう思ったんです」

『……。っ。あい……』

「……はなさん? だからどうか、今度は俺が、あなたを助けさせてください。……正直怖いですけどね。誰かが何か、ちょっとしたミスをしてしまえば。もう、きっと誰も助からないでしょう」

『……んっ』

「でも、それでもきっと、彼ならやれるんじゃないのかなって、そう思うんです」

『……うんっ。わたしも。そう思うよ』

「うん。彼には勝てっこないですから」

「ちょっと、どういう意味?」

『あ。……ひなた』

「ん? 何?」

『アイも殴っといて』

「りょーかい」

「ええ……!? なんでですか!?」

『葵の了承も無しにキスしたから。しかも二回』

「しかも、お礼とか言ってちゃっかりあいつのやさしさに付け込んでデートに誘ったから」

「ええー……。俺もう君に足蹴にされたんだけど……」

『え。……ヒナタ、そんなことしたの』

「ううん。記憶にない。捏造はやめてよー」


 みんなは声を揃えました。「よく言う……」と。