「アイさん……!」


 確かに、彼になら任せてもなんとかなるのかもしれない。でも、嫌なんだ。傷つけてしまうのが。
 彼に向ける敵意にレンが止めようとするけれど、それを向けられた彼の方がやめさせた。


「うん。……それで?」

「話を聞いてわかった。俺は君にはつけない。というか、今すぐこの件から引いて欲しい」

「アイくん……」

「それは、あいつを傷つけすぎるから?」

「そう。ただでさえ時間が削られてるのに、君のやり方だったらあおいさんが消えてしまう」

「アイさん。それは……」

「……本当にそれだけ?」

「何が言いたいの」

「だって、それはオレの話を聞いてそう思ったんでしょ? でも、聞く前からアイはどこにもつく気はなさそうに見えた」

「そんなの、君があおいさんを傷つけてなかったらついてたかもしれないじゃん」

「まあね。それもないとは言いきれない。でも、オレがそんなことをあいつにしてること。それからアイにとっての人質のこと。それ以外にオレにつけない……ううん。誰にもつけない理由があるんじゃないかって聞いてんの」

「はっ。そんなのあるわけないじゃん。俺はあおいさんを、父をなんとか助けたいから、その協力者を自分で決めないといけない」

「…………」

「きっと、いい物件なんだろうなって思うよ? でも君の方法は、助ける前に絶対あおいさんが消える。そんなの、……俺が許さない」

「……アイ、さん……」

「そっか」

「九条。でも、あおいさんは……」

「それは置いておいてだよ。アイは、オレには話してくれないんだなって思ったんだよ、レン」

「九条日向くん。残念だけど、俺は君にはつかない。他を当たって」

「え。何言ってんの? 他って言ってもアイ以外いないんだけど」

「そんなの知らないよ」

「うーん。何がそこまでアイを頑なにさせてるのか……」

「……話は終わり? だったらもう帰るよ。今のも聞かなかったことにするから、まあ頑張ってね」


 そう言って腰を上げ、玄関へ向かおうとしている俺を誰も止めはしなかった。


「(これでいい。君ならなんとかなるかもしれないけれど。でも、俺は絶対にあの家に背くことなんてできない)」


 それに。背いたとしても。君にだけは。俺は――……。
 そう思いながら、ドアノブに手を添えた時、


「……アイさんが誰の手も取れないのは、理由があるんですう」


 そう、カオルが零してしまった。