「雨宮先生や理事長から、いろいろ家のこととかを聞いて、アイたちのことも知ってた」
「……そう」
「それからオレは、あいつを助けるために、ついでにアイたちのことを助けようと思った」
「はは。ついで、ね」
「うん。だってオレは、あいつをちゃんとあそこから出して、幸せになって欲しいんだからね」
「……そっか」
「だから、あいつをちゃんと助けるためには、あそこをぶっ壊さないといけない。それは、アイもわかってるよね」
「……うん。わかってるよ」
「……自分の家だから難しい?」
「……それは……」
「アイ。信じて欲しい。オレは、オレがちゃんと味方になってくれそうな人を自分で見定めてから、こちら側につけてる」
「……味方……」
「そう。この図の中で言うなら、こういうこと」
そう言って、彼はスケッチブックをもう一度前に出してくる。
付け加えられていたのは、その図の一番上の人物から、カオル。レン。コズエ。理事長へと伸びている太い矢印。
「……え」
その一番上に描かれているのは、『オレ』って文字。
「とまあ人質なんてないし、自由に動けて信用できる、覚悟のある子どもであるオレに、先生と理事長はこの件を託したというわけ」
「……い、いやいや……」
……ちょっと待ってよ。だったら、本当に……。
「まあ使えるものは使わないと精神で、先生と理事長が駒になってー。先生大好きなカオルは、オレが説得しなくても先生がオレの駒だったから自然とくっついてきてー」
「ぼくはコズエさんと一心同体なのでっ!」
「ちょ! 離れなさい……!」
「カオルうるさいですよ」
「レンも、なんとか説得してオレの駒にしたー」
「説得じゃなくて、あれは脅しと言うんだ」
「え。泣いて喜んでたくせに……」
「泣いてない」
「まあそれはどうでもいいとして」
「雑すぎる……」
「なんでアイは、そんなに頑な?」
「え……?」
「いや、自分の家のことだし。自分でなんとかしたいから、オレらにはつけないのかなって」
「…………」
「でも話を聞いたら、アイだって無理矢理嫌なことさせられてるし。……あいつのこと、好きなんでしょ?」
「うん」
「そこには返事するのか……」
「……すごいね? 君の話を聞いて……ううん。コズエさんから、もうそういう助けてくれる人がいるって話を聞いて、嬉しかったんだ」
「…………」
「コズエさんから直接聞いたわけじゃないし、大人なんて信じられなくて。……そんな危ない賭け、できなかった」
「だろうね」
「だから、いくらカオルに説得されても無理だった。俺は、……怖いから」
「終わるかもしれないからでしょ?」
「え? ……うん。まあそうだね」
「オレの話を聞いて、どうだった?」
「君の話は、俺も危ないことをしないといけないんだけど。……でも、それでもなんとかなっちゃいそうな気がした」
「……そっか」
「君でしょ? 今、レンの代わりをしてくれてるのは」
「そうだよ」
「俺はね、確かにあそこから助けて欲しい。たとえ自分の家でも、……本当の父親が、そんなことをしてるとしても」
「…………」
「でもね。あんなことをさせられててもね、あおいさんだけは守りたかったんだ。それはカオルもだし、レンだってそう。なるべくあおいさんを傷つけないようにしてきた。できる、ギリギリの範囲で」
「うん」
「でも、君のやり方は酷すぎる」



