「……それが、俺ら……?」

「うん。あいつのことを助けたいけど、家に縛られて動けない。家にいる、でも家側でない人間を、先生は捜してくれた」

「だから、……あなたたちが危険なのは十分わかってるんだけど、彼女を助けるために、そして自分たちを解放させるために、力を貸して欲しいと思って声を掛けたの」

「そしてえ、ぼくたちはランデブーするということですぅ」

「カオルは黙っててください」


 コズエさんが公安で、自分たちのことを助けると。そう聞いた時点で、事情はある程度を知っているんだと思っていた。
 でも、その自分が聞いた『助ける』に彼女のことが入ってはいなかったから、コズエさんは彼女を助けるつもりはないんだと思って。


「(でも、コズエさんが前、家で仕事をしていたアメの娘さんだってことは聞いてたから、いろいろ話は繋がった気がする)」


 コズエさんが最初から、彼女を助けるつもりで動いていたのを知って、少し嬉しかったりもするんだけれど。


「(なんで君が彼女のそんなこと……家のことを。俺らのことを。知っているんだ)」


 スケッチブックにまた付け加えている彼を、怪訝な表情で見つめていた。


「オレが知ってるのはまあ、いろいろわけがあるんだけど……」

「(え。……心が読めるの?)」

「え。読めないよ心なんて」

「(え。怖い……)」

「オレができるのは、精々小手先のことばっかだ。相手を騙すことに関しては得意だけど」

「(うん。やっぱり怖い)」


 そして新たに付け加えられたのは、それぞれの人質。
 カオルは、家族とアイを。レンは、家族と社員たち、そして葵を。アイは、父親と葵を。最後に理事長は、……全校生徒を。


「みんな人質を取られてるから、家に刃向かおうと思ってもできないと」

「え。さ、桜の理事長も……?」

「あいつを入学させた時点で、全校生徒を人質に取られた。先生も人質こそいないものの、結局のところアイたちを助けようとしてるから下手に動けなかったりする。そこで、オレに声が掛かった」

「いや、そこでの意味がわからないんだけど……」

「言ったでしょ? 知ってるのにはわけがあるんだって。ある時からオレは、あいつを助けるためだけに生きてるんだって。流石に、家の内情とかアイたちの立場とか、そんなことは最初は知らなかったけど。あいつのことは知ってたんだ。だから、なんとかしたかった」

「……き、みは。一体……」

「アイ。オレは、大人なんて信じられない」

「――……!!」

「大人なんて、結局のところ嘘つきばっかだ。大人なんて、他人なんかどうだっていいんだ。大人なんて、自分の保身しか考えてない」

「……うん」

「大人なんて、……だいっきらいだ」

「うん。俺もだ」


 その考えには同意する。だって自分を、自分たちのことを縛ってるのは、欲に塗れた大人たちなんだから。