「オレは、アイが欲しい」

「……俺には、心に決めた人がいるので」

「オレにも心に決めた奴がいるからアイは遠慮する」

「(ボケたのに……)」

「ま、アイは逃げらんないけどね。オレに使われるしか残された道はないよ。よかったね」

「……はい?」

「いやだから、オレが使ってるんだって」

「……いやいや。言ってる意味がわかんないから」


 だってここにいる人たちはみんな、あの家に使われる人間であって。……彼に、使われるって……。


「……意味がわからない」

「だろうね。だからちゃんと説明してあげるよ」


 そう言って彼はスケッチブックを取り出した。


「え。……な、何これ」

「何って、こんな感じでしょ? アイが知ってるところは」

「いや。どうしたのって聞いてるんだけど……」

「え? わかりやすいでしょ?」

「(もう何も言わないでおこう……)」


 まず、そこに描かれていたのは道明寺に捉えられている、カオルとレンと俺。それから、道明寺のバックにいる警察と政治家。そして、スパイとして道明寺へと潜り込んだ、公安のコズエさんが図にされていた。

 それから彼は、次々に書き足していく。

 付け加えられたのは、公安のコズエさんと桜の理事長が繋がっている図。


「雨宮先生はあいつに接触するため、まず桜に乗り込んだんだ」

「え」

「本当はあいつは中学は桜に入るはずだった。でも、あいつは入学できなかった」

「(それは。俺が……)」

「雨宮先生の本当の仕事は、あいつを消すことだったんだ」

「……!!」

「アイくん。今は違うから、安心して?」

「……っ、そんなの。信じられません」

「まあどうするかは、オレがちゃんと説明しきってからにしてね」

「………………」


 無言を肯定と取ったのだろうか、ペンでスケッチブックを指しながら彼は説明を続ける。


「だから、先に理事長と接触してあいつに近づこうと思ったんだけど、あいつが入学できなかったから、先生は自分がわざと犠牲になって家へ直接潜り込むことにした。初めは消すことが仕事だったけど、先生もすでに乗り込んでいた先生のお母さんも、あいつが悪いってわけじゃないことに気が付いたから、内側からあの家を潰そうとした」

「………………」

「でもなかなか尻尾が掴めない。何故なら、あいつが上手く隠す手立てを考えているから。だから、あいつをあの家から引き剥がさない限り、あの家の証拠は掴めない。先生はお母さんから聞いてたみたいなんだけど、あいつもいろいろ事情があるから、その名前も探してやらないといけない。だから、結局はあの家に乗り込んでそれも探してる」

「こずえさん……」

「で。多分あいつの名前を家が何かしら掴んでるんじゃないかと思って、家の中で協力してくれそうな人を捜した」