渋々。俺もソファーに座り込む。


「……えーっと。な、なんで九条日向くんは。ここにいるのかな……?」

「ずずずずーっ……」


 美味しそうにお茶を飲んでいる彼に声を掛ける。


「ん? ……あれ。教えてあげようと思って」

「へ??」


 そう言って。何故か彼は、ハンカチを取り出した。


「約束したでしょ。教えてあげるって」

「え」

「連絡取ろうと思っても、いきなり知らない連絡先から来たら驚くだろうし、絶対に会ってくれないだろうなって思ったからさ」

「……い、いやいや……」

「あの時に連絡先を聞いておこうかと思ったんだけどできなかったし。……まあ、あのあとカオルから聞いたけど」

「ええ……!?」

「あはっ」

「オレは知ってたけどアイは知らないし、どうしたものかと思ってレンに頼んだんだ」

「……君が、レンとクラスメイトだってことは知ってたけど……」


 なんで、自分とレンが繋がってることが……。そもそもなんで、カオルが教えてるのかもわからないし。コズエさんだって。


「あなたに連絡を今までしないようにしてきたのに、九条のお願いとなるとそうもいかないので仕方なく連絡を取ったというわけです」

「(あ。絶対に勝手にデートしたこと怒ってる……)」


 いやいや、それはいいとして。だからって、なんで繋がってることがバレてるの!? ……あー。パニックだー……。


「はい。これどうぞ」

「え? ……あ、ありがとう」


 なんだか知らないけど、ぽんっと音を立てて、ハンカチから熱々の肉まんが出てきた。


「……いただきます(ぱくっ)」

「あ。肉まんじゃないよ。しし唐辛子まんだよ」

「……!?!? 辛ーい!! こ。こずえさん。み。みじゅー……!!」

「あらあら。九条くん、あんまりいじめてあげないでね?」

「ん? 今のはレンの気持ちを代弁してあげただけです」

「感謝する九条」

「(れん~……!)」


 俺が辛さに悶絶しながら火を吹いているところを、彼はちゃっかり動画に収めているみたいだ。


「いいね。そのうちサーカスに呼ばれるんじゃない?」

「ひょんなとこいきゃないきゃらー!!」
(訳:そんなとこ行かないからー!!)

「次何出して欲しい? 教えてあげる」

「ふ。……ふつうに。あの時出したステッキとか出してよ」

「え。今日置いてきたから無理だよ」

「(何がしたいの……)」


 俺が少しが落ち着いた頃。彼はお茶を飲み干して、ことんと机に湯飲みを置いた。


「なんでオレがここにいると思う?」

「わかんないから、さっきから聞いてるよ……?」

「え。そうだったの? いつ?」

「……いや。わ、わかりません」
(※面倒くさくなった)

「……そうか。わかんないか」

「……君は。一体誰なんだ」


 本当にわけがわからなくて、真剣に問い質すけど。


「え? 九条日向。高1。特技は一応手品? 趣味は隠し撮り」

「いや、だから九条。それはやめろ……」


 でも、そんなことを言った後、彼は目を瞑りながらこう言った。


「ある時から、ただ一人。救いたい奴のためだけに生きてる」

「……救い、たい……?」

「そう。アイだって、助けたい奴いるんじゃないの」

「……え」


 肘を突きながら、ゆっくり目を開いて視線を合わせてくる。


「なんでオレがここにいるのか、知りたい?」

「……まあ、そうだね」


 だってこのメンバーは、あの家に使われている人の集まりだ。コズエさんは公安の人みたいだけど、結局は嫌々家のために仕事をしてる俺らと、そう大差ない。


「(でも、なんでここに()がいるんだ)」


 あとから聞いた。俺のせいで消えてしまった女の子のことを。


「(コンテストの時だって話したけど、やっぱりそれとなく謝ることさえできないし。……謝ったって。許してもらえるわけがない)」


 君と、こんな風に話す時が来るなんて思わなかった。俺のせいで。九条家は壊れたと言っても過言じゃないのに。


「アイ。答えは、ここにいる人たちみんなを使ってるのがオレだからだよ」

「ハイ?」


 そう言う目の前の彼は…………あ。あれ?



「今日からアイも、オレの駒の仲間入りだよ。オメデトー」


 さっきまでの、ちょっと愁いた表情はどこへやら。それはそれは愉しげに笑っていた。