「(あー……オレ、何やって……)」


 ハナから離れて今、ようやく自分がやってしまった失態に気がつく。


「(やばいやばい。絶対オレのこと好きになっちゃダメだって。完全に引くって)」


 なんだこれ。オレのこと知らなくても完全にピエロじゃん。超ウケるんですけど。


「(うわうわバカ。オレのバカ。ほんと何して)」

「何してるのレン?」


 えっと思って振り返ったら、仮面を着けた知らない奴。


「あ。もしかしてわかんない? 俺だよ俺」


 そう言って、一瞬仮面を外した向こうには、ハナの唇を奪ったあの家の息子。


「(いやいや、オレの方が奪い方えげつないから、人のことどうこう言えない……)」


 誰にも見つからないと思ってた。完全にどこからも死角で、見えないと思ってたんだけど。


「レン銀髪だから。そんな人誰もいないし、すぐにわかっちゃったよー」

「(……うん。違うけどね)」


 にしてもこいつがレンと知り合いってことは、やっぱり……。


「ねえ、レンはあおいさんの監視してるんだよね」

「は? ……あーはい。してますけど……」


 取り敢えず、何か聞き出せるかもしれないと思って、話を合わせてみる。


「見つからないんだよー。せっかく一緒にダンスしたかったのにい」

「(すみません。完全にオレのせいですね……)」

「だからレンなら知ってると思って捜してたんだ」

「……すみません。私も彼女を捜していたんですけど、何分わからないように仮面を着けていらっしゃるので、見つけることができませんでした」

「やっぱりそっかー。レンでもダメだったのか……」

「……すみません」


 いやほんと、いろいろすみません。暴走しまくって。壊れたわ、ハナの前だと。


「せっかくここの生徒に成り済まして入ってきたのにー。残念ー」

「(そっか。後夜祭は桜生だけ……)」

「今日の文化祭もさ? やっとあおいさんとお話しできるチャンスだったから、ついつい欲張って後夜祭まで残っちゃったよー」

「……そう、ですか」


 やっぱりこいつ、別にハナのこと……いや。アオイのことを、別に恨んでるわけでも何でもない。


「ついさ? 嬉しくってにやついちゃったよね! 校内入ったらあおいさんの姿が見えるんだもん。ずっと見ちゃったよー」

「(お前かい。視線の犯人は……)」


 それをハナが気持ち悪いと思っていたことは……言わないでおいてやろう。かわいそうだから。


「カオルのおかげでコンテストも出られて、一緒に恋人にもなれたし! しかも……き、キスまで」


 ……なんだ。やっぱりこいつが、ハナと話したいがために昨日はツバサがあんなことになって? ハナは無理して? コンテストにも出されて? 挙げ句の果てには唇まで奪われたのかよ。オレの予想合ってんじゃん。


「あ。レン苛ついてるー。やっぱりレンも、あおいさん気になってるんでしょう。いい加減正直になればいいのにー」

「は? え。ど、どういう……」


 レンがハナを監視してるっていうのは聞いたことあるけど、あんまりそんな風には見えたことがない。……それに。ハナを好き?


「迷ってるでしょ、レン」

「……迷って……?」

「そう。……俺も、どうしたらいいのかわかんないよ」


 ……何を迷っている? どうしてそんな、苦しそうなんだ。