「ただい――…………ま」


 帰ってきて靴を脱いでたら、びゅんっとなんか吹っ飛んできた。


「……あーあ。トマトさんがダメになっちゃった」


 赤く飛び散った果汁を見て、過去を思い出す。未来にも起こるんじゃないかと。そんなことが頭を過ぎる。


「はあ。……荒れ始めたな」


 だって、もうすぐ年が明ける。


「…………」

「あ。……母さんただいま」

「…………」

「……ああ、これか。頂き物なんだ。男物だけどね」

「……あ。はるちゃん」

「うん。母さんただいま。どうしたの? トマトさん投げて遊んでたの?」

「食べ物は粗末にしちゃいけません」

「……うん。母さんがね」


 さっと着替えて、玄関の掃除をする。


「……あらあら。久し振りにこんな暴れたね」


 まだ窓ガラスとかが割れてないだけマシか。比較的当たってもそこまで死ぬようなものが飛んだわけじゃないみたいだ。


「(これから帰ってくる時は、ヘルメットでも被ろうかな)」


 あとは防弾ジョッキとかいるかもしれないなって、結構本気で思った。


「ご飯は? 食べた?」

「ん!」

「そうか。お風呂は? 入った?」

「ん!」

「じゃあ寝よっか」

「んー!」

「はいはい。トイレも行こうね」


 母さんを無事に寝かしつけたあと、今日こそはアオイから連絡が来るんじゃないかなって思ってた。


「……来ねえし」


 そうだろうそうだろう。元があれだけヘタレだからねー。そこから生まれた人もヘタレだよねー。


「……明日は、オレから掛けるよ」


 ほんと一か八かの大勝負だ。
 Aの番号で掛けて、もしあおいがとったらヤバい。でもBの番号で掛けてアオイが取ったら、オレがリアル変態仮面ってバレるからもっとヤバい。


「……よし。そうなったらすぐに切ろう」


 結局のところそれでビビってたら先には進めないし、Aの方で掛けてあおいが出たら悪戯電話だと思わせよう。気づいたアオイが、もしかしたら折り返してくれるかもしれない。ていうか掛け直せ。絶対。


「あー。……緊張する」


 なんだかんだオレから掛けたことなんてないから、少しビビってはいるけど。そんなことを考えながら朝方、オレはやっと就寝した。


「あ。……そっか。今日はあいつの家にアキくん行くのか」


 起きてすぐこんなこと思うのもどうかと思うけど、アキくんはもしかしたら、頑張ってあいつから聞き出そうとするかも知れない。


「いや、前踏み込もうと思った時すんごい拒否られたから、それが怖くて無理か……」


 聞けたとしても、ほんの僅かなことだろう。きっと上手く躱される。


「ってなると、取り敢えず葵には今日の夜に掛けてみることにして。あとは……アイか」


 あいつにも接触しておきたい。できれば年内には。


「……よし。あの手で行こう」


 そう思ってお昼前、オレはある駒に連絡を取る。