それから続いて、アキくん宛のものを躊躇わずに開く。
一緒に入れてあったから、封も何もなくオレが読んだという形跡も残らない。カエデさんは、律儀に見ないようにフロントガラスを見つめていた。
だから、きっとそのガラス窓に、ぽ~いっ! とオレが手紙を投げた姿が映ったのだろう。
「はあ!? おい! 何してんだヒナタ!!」
「すみません。無性に腹が立ったんで」
何それ。これ読んだらアキくんパニックだよ? わけわかんないこと並べてさ。『それでも構いません』?
「ふざけんな」
「え。……ちょ。アオイちゃん。何書いたんだよ……」
もしかしたら、アキラが喜ぶようなことなのかなってカエデは思ってた。まあアキラの場合、手紙が来た時点で飛び跳ねながら大喜びしそうだけどね。
「あーダメだ。これは相当頑固だー……」
「が、頑固……?」
「いや、まあいいです。あいつがヘタレってことは十分わかったので」
「へ、ヘタレ……?」
そう言ってオレは、カエデさんに手紙を返した。
「時が来たら渡してあげてください。多分アキくん相当パニックになると思うんで、支えてあげてくださいね」
「あ、アオイちゃんにもそんなこと言われたけど……」
「はあああー……。どうしたもんか……」
「……まさか見ない方がよかったか?」
「いえ、見られてよかったです。……このままじゃダメなんだなってことがよーくわかったので」
「え……」
カエデの目には、ヒナタがすっごく悪いことを考えてるように見えた。
「悪いことだなんて失礼だな。どうやって吐かせてやろうかと思ってるだけですよ」
「いやいや! お前が言ったらマジで拷問とかになりそうだから……!」
「拷問か。……それもいいかもしれないな」
「あ。ごめんアオイちゃん。絶対余計なこと言ったわ俺……」
「でも、……ほんと。見てよかったですよ」
「……ヒナタ。吹っ切れたっていうのはまさか」
「ん? まあ、あいつを助ける覚悟はあったんですけどね。こっちの方の覚悟は、まだできてなかったんだと思います」
「お前は……」
「ありがとうございましたカエデさん。また何かあったらお願いしますね」
「おいヒナタ。それじゃあお前は」
「いいんですよ。遅かれ早かれ、こうなるつもりでしたから」
「それじゃ」と、扉を閉めて歩き出した。
「……おい。ここが家じゃねえんかい」
わざとこんなところで降ろしたってことは、家に来るなってことなんだろう。
「……お前も、何抱えてんだろうな」
ぼそっとそう呟いて、カエデはヒナタの姿が見えなくなってから車を走らせた。



