「カエデさんは、今日のことご存じだったんですね」
「俺も、聞いたのはお前らを迎えに行く直前だ」
「え」
「本当は、シランもあの場で俺に言うつもりだったみたいだけどな。……アオイちゃんが関わる話だ。知っておいた方がいいだろうってことで、迎えに行った時にそうあいつが言ってた」
「……ありがとうございます」
「いや、いいんだ。それにちょうどいい」
「え? 何がですか?」
そう聞いたら、カエデさんがポケットからあの手紙を取り出した。
「今ならもう、見るべきだ」
「やっぱり……」
オレは、封が開かれた手紙をそっと受け取った。
「やっぱりっつうことは、ある程度予想はできてたか」
「これが本当はカエデさん宛ではなくアキくん宛だろうってことぐらいはあの時から。だから、余計見られなかったんですけど」
「……今は見るのか」
「あいつがアキくんに何を言っているのか気になりますし。……ま、恐らく返事でしょうけど」
「返事? ……よくわからんが、よくそこまで頭が回るな」
「アキくんにわざわざ手紙でこういった返事をした理由も、何となくわかります。だからアキくんにしか言ってないことを、何か伝えてるかも知れない」
「……それが、アオイちゃんを助ける手がかりになるかもしれないってことか」
「わかりません。でも、その可能性だって捨てきれない」
あいつがここに、自分がしてきたこと。少なくともアキくんが関わってることを書いていれば大前進だ。それか、アオイの存在を。
「(もしそれが書かれてたら、アキくんは駒じゃなくて大きな味方になれる)」
「お前は、アオイちゃんが見て欲しくなくても見るのか」
「………………」
「この間は言ってたよな。見るべきじゃないって」
「そうですね」
「随分面倒くさい性格してんなと思ったけど、芯が通ってて感心した」
「そうですか」
「なのに、……今はどうした。躊躇いもなく受け取ったな。なんか吹っ切れたか」
「……ま、そんなところです」
それだけ返して、オレはまずカエデさん宛のものを読んだ。
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皇紫蘭様の専属執事 楓様
突然のお手紙、失礼します。
わけあって架空の人物を装い、知らない差出人で驚かれたことでしょう。
先日はうちの執事と再会することができ、本当によかったと、そう思っております。
カエデさんはお変わりないでしょうか。
アキラくんへの糖尿病教室はなかなか骨が折れそうです。
シラン様はお元気でしょうか。
またいつか、ご挨拶にも伺いたいと思っています。
前置きが長くなってもいけないので、本題へ移らせていただきます。
この度カエデさんにお手紙を認めたのは、あなたにお願いがあったからなんです。
この手紙とは違う、もう少し分厚い方の手紙を、わたしの代わりにアキラくんへお渡しいただけますでしょうか。
その手紙は、わたしが彼に伝えなければならないことが書いてあるんです。
どうかカエデさん。中身は見ずに、彼にお渡し願えますか?
渡していただく日も、指定させてください。
カエデさんも恐らくご存じではないと思うので伝えるのが難しいのですが、わたしとアキラくんの関係をあなたが、そしてアキラくん本人が『きちんと知った』時。
わたしからカエデさんに、お仕事を頼みます。
その『仕事』というのがアキラくんへその手紙を渡すこと。
……こんなことをあなたにお願いしてしまい、申し訳ありません。
でも、今のわたしがこのことに関して頼れるのはカエデさん、あなたしかいないんです。
どうかお願いです。
時が来たその時はその手紙を、あなたは見ずにアキラくんにだけ渡してください。
よろしくお願い致します。
あおい
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