道明寺が去った後、シランさんはオレらに今日は帰るように言った。


「み、んな」


 帰るのを渋っていた。いや、帰るに帰れなかったんだ。驚きで、みんな足が動かなかった。
 でもその時、一番パニックであろうアキくんが声を掛けてくれた。


「俺も、ちょっとほんとによくわかってないし、何より向こうの気持ちが、よくわかってない」


 そうだ。カナは振られたって言ってた。トーマもだし、シントさんはよくわかんないけど、アイだってさっき振られてた。
 返事を聞いてるのかはわからないけど、チカだってオウリだってアカネだって、あいつには気持ちを伝えたはずだ。


「(あいつがアキくんに返事をしなかったのは、こうなることがわかってたからだ)」


 返事は恐らくNOだろう。でも、NOにもかかわらず、父親が今さっき言っていた。
 娘が是非に(、、、、、)――……矛盾している返事を、あいつはアキくんにしたくなかったんだ。


「(……あれ? ちょっと待って)」


『どうしてこれを俺に渡した。直接渡すか、話してやればいいじゃねえか』

『……それが、できない恐れがあるので』


 カエデさんに渡すぐらいだから、アキくんが関係してるんだろう。アキくんに渡してやれば、話してやればいいんじゃないかっていうのは……。


「(あの手紙は恐らく、あおいからアキくんへの返事だ。嘘偽りない)」


 そうなったら、きっとあおいは嘘が付けない分、アキくんに本当のことを話す可能性が高い。


「(カエデさんはもう渡しただろうか。事情を知った今なら、それをオレは確認しておくべきだ)」


 それに、オレはもう躊躇ったりしないんだから。
 でも……アキくんに手渡ってたら不味いな。流石にアキくんに頼むのも、なんでそれを知ってるのかって話になるから、ここはカエデさんにいっちょ泥棒にでもなってもらうしか。


「(でもアキくんの場合、めっちゃ頑丈な金庫とかに大事に大事に入れてそう……)」


 それこそ、しっかり額縁とかに入れて。


「お待たせしました。皆様、お送り致します」


 表に車を回したカエデさんが、オレらに声を掛けてくれた。


「(カエデさんと話したい。でも、……無理か)」


 流石にみんなの前では……。あー……カエデさん。オレのこの気持ちに気付いてくれないかな……。
 そんなことを思いながら、車で送ってもらってたんだけど。


「あ。カエデさん。オレ、ツバサとは今違う家に住んでるんですよ」

「え」


 そんなこんなで、結局最後に送ってもらうことになったので、カエデさんと話すことに成功した。