「そんなに心配でしたか?」
と、きっとオレらに聞こえるように、アイが声を張ってきた。
「(オレらに接触を……まあ、一回コンテストの時してるけど)」
まさか向こうから来るとは……と思っていたら、挑発に乗ってしまったみんながほいほい姿を現してしまった。
「(……ったく)」
みんながそうなら、オレも便乗するしかないじゃん。
そう思って仕方なく、もう一度アイと対面した。
「……ねえ。あなたは誰?」
「名前ですか? ……そうですね。では、アイと呼んでいただければ」
「……アイ?」
あおいにもそう呼ばせていた。でも、あおいの前で自己紹介したってことは、下の名前はあいつもちゃんと知ってるんだ。
「あれ? もう一人の方はいつの間にいなくなったんですか?」
正直、何人が付いてきてるかなんて、あおいは言っていないはずだ。なのに、なんでこいつはそれがわかったんだろう。
「(……頭が切れる駒とか、最高なんですけど)」
ほんと、喉から手が出るほど欲しいよ。
それから、あいつもどうやら帰るみたいで、オレらも同じ電車に乗った。まあ、みんなあいつと同じ車両は嫌だったみたいだけどね。
「(さてと。どうやってアイに接触しようか)」
流石に、みんなの前で接触は難しいな。どうしたもんか。
駅に着いたら何故かカエデさんがいた。
「皆様、お迎えに上がりました」
どうやらアキくんが気を利かせてくれたみたいで、カエデさんが最寄り駅まで来てくれていた。
「ドレス、タキシード等はこちらで準備をしておりますので、どうぞお乗りください」
至れり尽くせりで申し訳ないけど、お言葉に甘えて車に乗った。
「……今日、絶対にシランと道明寺の会話聞いとけ」
「え?」
擦れ違い際に、カエデさんがオレにそう言ってきた。
「(何かあるのか、やっぱり)」
道明寺が、十年振りに顔を出すこと。あおいが一緒に参加すること。アイは参加しないこと。
「(それから、アオイから連絡が全然ないこと)」
これはもしかしたら繋がっている可能性が高いと思って、嫌な予感がしつつも、皇のクリスマスパーティーへとオレらは潜り込んだ。
…………いや。それはもう、『パーティー』なんかじゃない。
これは、両者が対面し、結んだ契りの、確証を得るためだけに設けられた場だったんだ。
「(……また真っ赤……)」
カエデさんと一緒に、裏側の通路だろう。そこから出てきたあいつは、また赤に包まれていた。
「(父親が求めているのがアオイだから? だからあんたは、そんな恰好してるのかよ)」
堂々と会場の入り口側へと向かって歩くあいつを、みんなが釘付けになったように見ていた。
「(道明寺薊……)」
あいつが辿り着いた先は、今の父親であるあいつのところ。
「(……っ、またがっちり着いてる)」
あおいの顔には、それはもう今まで見たことがないほどの完璧なる仮面が着いていて、それだけでたじろいでしまいそうなほど。
「(でも、着いてるってことは……)」
オレらのことを守るためか。
……いいや。それもあると思うけど、多分……。
「(嫌なんだ。今まで以上にここに来るのが)」
嫌だ。苦しい。悲しい。寂しい。つらい。助けて。
そんな感情が出てきそうなのを、あいつは完全に隠そうとしてるからあんな顔なんだ。
アキくんとシランさんが二人と話をしている間、みんなもあいつを駒のように扱っている家の人間を、鋭い眼差しで睨むように見ていた。オレはそれもあったけど、どうしてそこまで必死に仮面を着けているのか、あいつの意図がわからなくて、あいつの方を睨むように見てた。
そうしたら、あいつの父親がこっちを睨んできた。その威圧感に圧倒されそうになるけれど、みんなはあいつを思う気持ちが強いのか、そんなものを向けられたってビクともしなかった。
……でも、そんなのも一気に崩されてしまったんだ。
「娘の葵と、君の婚姻のことだよ」
道明寺アザミの発言で。



