「それじゃあ、俺はそろそろ行くから」

「お。アキ! あとでなー!」


 アキくんは夜のパーティーの主催者側だから、先に帰って行ってしまった。そのあとオレらはあいつらの死角で、でも会話は聞こえるところでパレードを見ていた。


「あおいさん。また、俺とデートしてくれませんか。もちろんお礼はなしで」

「嬉しかったのも楽しかったもの本当です。でもわたし、こういう素敵なことは好きな人と分かち合いたいので」


 そう言って、あいつは遠回しだけれど、アイに告白の返事をもう一度していた。


「ということは、友達に昇格したってことですよね!」

「ははっ。……そうですね。お手柔らかにお願いします?」


 そしてどうやら、アイがお友達に昇格したらしい。
 ていうか、めっちゃポジティブなんだけど。ほんと、分けて欲しいぐらい。

 それからどうやらあいつも時間らしく、出口の方へと向かっていったので、それに付いていった。


「……なんかさー」

「ん? どうしたのよカナ」

「アオイちゃん、楽しそうだったねー」

「……ええ。そうね」

「でもよ、振っただろ? あいつのこと」

「でもでも、彼諦めてなかったみたいだしっ」

「いつあーちゃんがコロッといっちゃうかわかんないしっ」


「また敵が増えた……」と落ち込んでいるみんなを、後方からパシャリ。


「あれ? ……あんたはそう思わないの?」

「え。そんなのだいぶ前からわかってたじゃん」

「ああコンテストの時ね。あっちゃんあの時も彼に告られてたからなー」

「え」

「え? ……何? 今頃」

「いや。オレとチカとオウリ、告白されたのは聞いたけど誰からかなんて聞いてないし」

「あれ? そうだったっけ?」

「まあ、あいつが好きなのは見ててわかるけど……」


 でも、なんでこんな状況なのに、あいつはあおいに告白なんて。


『シント。お迎えありがとうございます』

『お嬢様、お帰りなさいませ――』


 シントさんがあいつを迎えに来たんだけど、一瞬息が詰まった。


「(まあ、あいつ尋常じゃないくらい買い物してるから、それのせいもあるかもしれないけど……)」


 何分何もない開けた通りなので、あんまり近寄ることができない。……ま、もう見つかってるんだけど。


「(でもシントさんの声、完全に執事モードだ)」


 だからオレは、ハートが拾う会話を聞いてたんだけど。……彼の声に混じって、どこか何かに堪えてるような。普段の彼を知ってるから、執事モードがそう聞こえるのかとも思ったんだけど。


『初めましてシントさん。あおいさん、今日忙しいみたいだったのに、連れ出してしまって申し訳ありません』

「(……ッ、あおい!?)」


 てっきりみんながアイと呼ぶから、勝手にそれが名前だと思っていた。


『……いえ、藍様。お嬢様も大変楽しまれたご様子ですので、こちらがお礼を申し上げるべきで御座います。本日は、お嬢様と仲良くしていただきましてありがとうございます』

「(また息が詰まった。……シントさんは、アイを知ってるのか)」


 だったら、最初に会った時に息が詰まったのも納得がいく。きっとシントさんは、あいつから相手のことは聞いてなかったんだ。


「(それに、あの家の執事だ。本当の息子に関わる機会なんか、たくさんあったんじゃないか……?)」


 それからあいつは、アキくんのパーティーに行くのに車を走らせて帰って行った。


「(でも、なんでそもそも本当の息子であるアイは、パーティーに参加しないんだろう)」


 あいつにバレてはいけない理由があるのだろうかと。そんなことを考えていたら……。