「ごめんキサ。待った?」

「……待ったか、ですって?」

「ごめんって言ったじゃん」


 キサのところまで走って帰ってきたけど、大層ご立腹のようだった。


「はあ。多分もうこれ以上は誤魔化せないから。早く戻るよ」

「はーい。ありがとうキサ」


 みんなに伝えた工作の理由も教えてもらったので、すんなりと帰って来られた。


「遅かったな。何かあったのか」

「軽くパニックの人がいたりしたけど、まあ別段気分が悪い人もいなかったよ。何かあったらいけないからちょっと表にいたけど、大丈夫そうだったから戻ってきた」

「(よくそうペラペラ嘘が出てくるわね、あんた……)」


 どうやらキサに褒められていたらしい。お褒めの言葉ありがとー。


「ちょっとみんな! 大変だよ!」

「ん? どうしたのー? オウリ」

「なんかあったんか?」

「あーちゃん救護室にいないんだ!」

「(あ。そっち考えておくの忘れてたわ)」


 まあ、あいつはあいつでなんとかするでしょ。


「え? もう処置が終わったんじゃないの?」

「でも、それならあおいチャンここに来るはずだよね?」

「……誰も、来てないみたいなんだ」


 みんなは、怪訝な顔で固まった。


「救護室は、何かあった時のために開放してたでしょ? でも、使った人は名簿に名前を書かないといけない」

「……それが、なかったのか」

「うん。だから、あーちゃんは多分救護室には行ってないんだよ」


 オウリがそう言うと、みんな顔を顰めてしまった。


「……ちょっと、日向」

「いや、これはオレと言うよりもあいつが悪いでしょ……」

「事の発端はあんただろうが……!」

「嘘ついたのはあいつでしょ?」

「むきー……!!」

「にしてもどうしたもんか。まあ、あいつが上手くやれるように、オレらも変に庇ったりしないように、みんなに話を合わせよう」

「……はあ。それしかないか」


 それからどうやら、レンが近くまで送ってくれたらしい。
 ていうか長いよ。早く連れてこいよ。


「(あいつ、王子なんて嫌だとか言ってたくせに、ノリノリじゃん)」


 ま、あいつの前だからかもしれないけど。


「(オウリのくせに、ちゃっかり写真撮ってるし)」


 ブレーカーに触れた時、確かに埃は被ってた。でも、オレはキサが話を合わせてくれた分疑われたりなんかされてないけど、あいつが今までどこにいたのかみんなが突っかかっていった。


「(やばいな。多分あおい、停電したことも覚えてないんだ)」


 一個半使ったからなのかなと思ったけど、記憶がないあいつを庇うようにツバサがあいつの盾になった。


「(ツバサに任せておけば大丈夫か)」


 ツバサもあれの被害者だから。あいつにならきっと、あおいも話すだろう。
 みんなも、あいつの様子がおかしいことに気が付いたのか、ツバサに任せることになった。


「(まあ、あれだけがっちりついてた仮面が、今は外れてるんだもんな。本人気が付いてないみたいだし)」


 それに、やっぱり目が腫れてる。あれだけ泣かしたんだから、それもそっか。


「(たとえ自己満足でも。あいつが覚えてなくても。オレは、自分の口からちゃんと言いたいこと全部言えて、決心がついた)」


 ……あおい。オレは動くよ。それはもう、――命をかけて。


「(だから、もし言えなくなったらいやだから言っておきたかったんだ。……これでもう、心残りはないよ)」


 さあ、動こう。一世一代の大勝負へ。


「(たとえ嫌われても、もうオレは迷わない。必ず助けてみせるから)」