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 止まらなかった。溢れてくる涙が。
 覚えてないんだ。本当に。忘れたことなんてなかったのに。それが怖い……はずなのに。


「覚えているから、泣いていらっしゃる。あなたの『ここ』は、ちゃんと覚えてる」


 そう言って彼が示したのは、自分の心。
 本当に、ほんの少し前の記憶がないのは確かだ。……でも、消えないものもあったんだ。


「(……。ひなた。くん……)」


 確かに芽生えた、この想い。
 何でなのかはわからなかったけれど。この想いだけは、記憶とともに消えはしなかった。


「(……。怪盗さん。賭けに負けた。その時は……)」


 必ず果たすと。そう、約束します。


「止まるまで、そばにいても?」


 溢れてくる涙が止まるまでと。そう彼が言ってくれた。
 ……涙が出てくるわけは。わからないけれど……。でも。決して、悲しくて涙が出てるわけじゃないってことだけはわかる。


『だから、信じて待ってて?』


 彼がそう言った記憶なんてない。
 でも。……なんでか。その言葉が、すっぽり開いた空白に、すとんと収まる。

 ふと目を瞑れば、目蓋の裏には彼の姿が映る。たったそれだけで胸が高鳴るというのに。
 彼のことを考えるだけで、……愛おしくて、苦しい。


「(……。でも。わたしには……)」


 まだ。彼を幸せにしてあげられないから。


「(……。この気持ちを。そっと。しまっておこう……)」


 またいつか。自分が約束を果たす、その時まで。


「(わたしの。心の箱に。隠しておこう……)」


 こんな気持ちを、知らなかったんだ。わたしは。……知ることができて。よかった。


「(……。聖夜の。……最高の贈り物だっ)」


 このカードに書かれた言葉を、そっとなぞる。


「(……わたしも。想ってます。クリスマスと言わず。……ずっと)」