もういいだろうと思って、鼻を塞いでいたハンカチを取る。


「半分しか入れてないのにこの効き目。すごいなアオイ」


 この写真のことを覚えていなければ、レンがあの花畑に行くこともないだろうし。ブツはオレが家で保管しておくから、こいつが今のことを思い出すことはまずない。オレは、座ったまま眠ったレンを、横たわらせた。


「……ごめんね。オレ、すっごい捻くれ者だからさ」


 そう言いながら、もう眠っているレンにポケットから出した目薬を見せる。


「ほんと、最低だな。オレは」


 でもこれが、オレの計画だから。そう思いながら月を見上げていた。


「……オレなんかやっぱり、太陽にも月にもなれないよ」


 なれたとしたって、宇宙の塵だ。いや、塵にすらなれないかもな。


「なりたいよ、オレだって。月にだって。……太陽にだって」


 でも、もう遅い。オレの罪はもう。たくさんの年月を経て、濃いものになってしまった。


「なれないんだ。どうしたって。……王子になんて。なれないんだよ」


 ――さあ、言おう。今まで隠していたことを。


「レンくん! いたら返事、を…………――っ!?」


 ガラガラと音を立てて、愛おしい彼女が入ってきた。


「(……やっぱりね。来てくれると思ってた)」


 たとえ、君が覚えていなくたっていいんだ。
 これは、ただの自己満足。わかってる。十分。


「……ねえ。おしえてよ……。ひなたくん……」


 また泣いてるの? ……仕方ないな。


「また泣いてるの? ハナ」


 教えてあげる。オレが、ずっと隠してたこと。


「聞かない振り、してあげるから。言葉にしなよ」

「……。ひなた……。くん……」


 これは、最初で最後の、オレの告白。


「泣き終わったら、よくできましたって。また抱き締めてあげるよ?」

「……っ。……るに。ちゃん……っ」


 溢れてくる涙を、小さく笑いながら拭ってあげる。


「うん。……ハナ、久し振り」


 やっぱり言っておきたいなって、思ったんだ。
 ……だから、聞いて。これは、オレの……告白だから。