そう言いながら写真から視線を上げると、シュッと何かを吹き掛けられた。


「……!? ……く。じょう……?」

「ごめんね? でも、多分この写真見たらさっきの思い出しちゃうから、これはあげなーい」


 鼻を塞ぐようにハンカチを当てていたこいつは、そう言ってオレの手から写真を抜き取る。


「くっ。……な。んで……」


 力が入らず立てなくなったオレは、そのままガタンと机に当たりながらへたり込む。


「え? だって、この写真オレの宝物だもん。初めからトリガー目当てだし。レンにはあげないよー」

「……。ちが。う……」

「残念ながら、話はここで終わらない」

「……どう、いう……」

「レンに断られちゃったら、薬を使って忘れさせようと思ってたってこと」

「……。なんで。……そんな、こと……」


 目蓋が。……重い。頭が。ぼやける……。


「言ったじゃん。レンには拒否権なんてないんだって。これはオレのやり方。たとえそれが間違ってたとしても、駒を動かすのはオレの役目。ついてきたんでしょ? 他でもないオレに」

「……。九条……」

「残念だったね。断らなかったらよかったのに。ま、オレの本当の目的を知らなかったら王子を引き受けてくれるみたいだから、これはもうレンには言わないでおこう」

「……。っ、く。じょ。う……」

「こんな形でごめん。でも、ちゃんと口には出して言っておきたかったんだ。……ちゃんと、言えてよかった」

「……。っ、くじょう……っ」

「あいつにも今から言うんだ。オレがルニだったってこと。ちゃんと言いたかったんだ。今回は、あいつを傷つける目的もあるけど、オレの我が儘だったんだ」

「……。く、じょ。う……」


 ……だめだ。もう、眠気に。抗えない。


「おやすみ。今回ばっかりはお姫様。……いや、レンは『眠れる王子様』でいっか。それはそれで面白い物語だ」

「…………」

「王子になんてなれないよ。オレは真っ黒の汚れきった、端から見たらただのピエロなんだから」

「…………」

「でも、……ありがとう。そう言ってくれて。幸せになってね、レン」