すべてはあの花のために❾


「……あれ? レンがいない……」


 英語教室に到着したものの、どうやらオレの方が早かったみたいだ。まああの子、女子並みの体力だしね。どっかで歩いてるんだろう。そう思っていたら、すぐにレンがやって来た。


「悪い。遅くなった」

「ほんと足遅いね」

「人には得手不得手がある」

「努力はしなよ」


 にしても、若干息上がってるし。どんだけだよ。


「……それで? なんでここなんだ?」

「ん? 多分ここに来てくれると思ったから」

「また勘か?」

「来てくれるって信じてるんだよ」

「……そうか」

「あ、そうそう。レンにこれ見て欲しいんだ」


 そう言って渡したのは、あおいが小さく写ってる、トーマからパクったあの写真だ。


「……なんだ、この写真」

「実はこれ。ここにあいつ、ちっちゃく写ってんの」

「え?」

「本当にまぐれなんだけどね。人が撮ったものだけど、……あいつ、ここでいっつも泣いてたんだ」

「……そうか」

「ちゃんとよく見て? あいつでしょ?」

「ん? ……よくわからない」

「そんなことないのにー。……あ。『あれ』ちょっと見せてよ」

「ん? ……ああ、『これ』か」


 そう言ってレンは、オレにあの薬を渡してくれた。


「へえ。これが、ねえ……」

「一錠で少し前の記憶が完全に消える。トリガーがないと、絶対に思い出すことはない。半錠でも一応記憶は消えるらしい」

「でも効き目が弱いんでしょ?」

「ああ。一錠に比べてトリガーが緩いから、ふとした拍子に思い出す可能性がある」

「ふーん。……あのね、レン。あの時の話、実は続きがあるんだよ」

「は? 続き?」

「言ったでしょ? あいつをあそこから出して、幸せにしてやりたいんだって。覚えてる?」

「ん? ああ、覚えているが……」

「オレはレンに、あいつを幸せにしてもらいたい」