すべてはあの花のために❾


「(……さてと)」


 いよいよ、クリスマスパーティーが始まる。
 パーティーが始まってケーキを食べる20時まで一旦控え室でオレらは料理を楽しんでいた。


「24日はわたしがアキラくん家のクリスマスパーティーに」

「25日は俺が葵家のクリスマスパーティーに行くんだ」


 でも二人がいきなりそんなことを言い出したので、一気にうるさくなった。


「(パーティー、ねえ……)」


 アオイの話によると、こういった表にはあのアキくんの誕生パーティー以来アオイも、あおいも、それに父親だって出ていないらしかった。


「(それがなんで今更。しかも、あいつの家にアキくん行くのか……)」


 前みたいなことがないことを祈るけど。


「(……取り敢えず、アキくんの方は捻じ込んでもらえるようになった)」


 あいつの方のパーティーは無理みたいだけど。


「(でも、写真で見ていた父親を、オレの目でちゃんと見定めるチャンスだ)」


 それに、きっとそういうパーティーにはアオイを連れて歩くに違いない。アオイにも、もしかしたら接触できるかも。


「(あ。でも、時間帯的に無理か……)」


 昔は荒れてたからアオイは出てきてたんだろうけど、今はもう感情のコントロールはこいつはできるようになったから、夜中の数時間だけしか出てこられない。


「(だったら、本当に行くのはあいつ? 父親は、一体何を考えて……)」


 それにあおいもだ。仮面を着けてから、本当にそういうのがわかりづらい。


「(シランさんもいるんだろうし、お礼も言わないと)」


 でも、そんなことを考えている間もなく。


「その日はデートなんです」


 どうやらアキくんのパーティーに行く前に誰かとデートするみたいなんだけど、問い質す前にタイマーが鳴った。正装に着替えて、ケーキの準備に取り掛からないといけない。


「(みんな落ち込んでるってことは、この中の誰でもないってこと……?)」


 だったら、一体あいつと誰が接触できる?


「(……レンか)」


 全然無関係なのに、向けた殺気で今頃誰かが悪寒を感じているなんて。まあ誰もわからないだろう。

 ケーキを準備している冷蔵庫のところへ行くと、ばっちり変装したナズナさんが待機していて、オレにウインクしてきたけどまあそれどころじゃなかった。


「(真っ赤なドレス、ね……)」


 赤はアオイが好きな色だ。あいつはどうか知らないけど。


「(でも、どうしてわざわざ嫌いなアオイの、好きなことをしようとしてるのか……)」


 それが時間を延ばすのと関係があるのかと聞いたら、間違いなく答えはNOだろう。アオイは何も言ってない。


「……渡し終わったら、あいつが食べる前に姿を眩ませてくださいね」

「任せておいて」


 ナズナさんにそう言って、オレも会場へと足を運ぶ。


「(まああのドレスなら目立つし、すぐわかる)」


 ……あ。ケーキ食べた。……あ。ケーキ捨てた。


「(ナズナさんお手製だったのに。言ってやろー)」


 まあ、それはさておいて。


「(確かあいつ、カード引いてなかったはずだから……)」


 一番控え室に近いクラスを担当していたので、ケーキはそこら辺の女子にあげて、オレは急いで控え室に戻った。


「残ってる残ってる」


 箱の中からは、カラカラと寂しい音が聞こえていた。


「……いろいろ案は練ったんだよ? どうやってあいつに、このカードを渡そうかって」


 オレは、女子のボックスに手を突っ込む。


「最初から男女一組ずつ抜いておけばいいかなって思ったけど、そしたらキサが一枚しかないことに気が付くだろうし、あいつもおかしいなって思うから」


 この女子のボックスに残った一枚と同じ柄の人を捜して、手違いが起こったからって言って、オレが引いたカードと交換してもらえばいい。


「オレは誰とも踊るつもりなんかないし、ナズナさんを身代わりにしたけど」


 指先にカードが当たった。あったあった。


「こんな大人数なんだ。見つけられない人が多数だと思うし、アナウンスしたらすぐに来てくれるでしょ」


 何の希望なんて持ってない。本当にそうするつもりだったんだ。だからレンには、オレから合図がある前にあいつには接触しないように伝えるつもりだった。