そうこうしてたら、駒が一人近づいてきた。
「久し振りねひなたくん」
「すみませんナズナさん。無理を言ってしまって」
男性に変装したナズナさんを、オレは今日駒として使う。
「いいのよ~。なんかちょっと面白いし?」
「そ、それならいいんですけど……ナズナさん。その前に仕事あるの、忘れてないですよね?」
「もちろんよ? ……ひなたくんにもらったサンプルを元に作って、中にピエロを入れておいたわ」
「ありがとうございます。ナズナさんは、あいつのいるところで生徒たちに一緒にケーキを渡してもらうようになります。それはあいつに渡してくださいね」
「それはいいんだけど、どうしてこんなことを? あんまり、もらっても嬉しくないんじゃない?」
「どうしてもしなくちゃいけないんです。ナズナさんにはあいつを助けるために協力してもらってるんですけど、あいつ以外にもついでに助けなきゃいけない奴らがいるんです」
「……その人たちのために、こんなことをするの?」
「はい。しなければならないことなんです」
ナズナさんは険しい顔をしていたけど、それ以上聞いては来なかった。
「……あなたがそうなら、あたしもお手伝いしないとね」
「ありがとうございます。それから『これ』。ナズナさんの相手は、このカードの柄が同じ人なんで、ケーキを渡し終わってタキシードに着替えたら、ペアを捜してくださいね」
「わかったわ。……ふふっ。なんだか楽しいわね?」
「そ、それはよかったです……」
それからオレは、会場が一回暗闇で覆われることも伝えた。
「……それも、必要なことなのね」
「まあ、これはオレの我が儘のようなものですけど」
「我が儘?」
「はい。ちょっと、話したい奴がいるんで」
「……そう」
「なのでナズナさん。すぐに電気は点くと思いますが、怪我はしないようにだけ気をつけてくださいね」
「わかったわ。ひなたくんも、気をつけてね」
「ありがとうございます。……ナズナさんも、言葉気をつけてくださいね。あの蝶ネクタイ貸しても、それじゃあオネエになるだけなんで」
「わかってるってー」
「よ、よろしく頼みましたよ……?」
一応理事長には伝えてある。だから、手は出さないでくれと。
「じゃあな、ひなたくん」
「はい。お願いします」
男モードでナズナさんはそう言った後、業者の人に交じっていった。



