「……あ。レン」
「順調か?」
17時なって、生徒たちがツリーの飾り付けに来てくれていた。その中に、燕尾服を着るように言って、それをちゃんと着てきたレンがオレに気づいてこちらへとやってくる。
「順調順調ー。昨日のこともちゃんと報告した?」
「……ああ。した」
「そっか。よかったよかった」
レンの眉間に皺が寄る。あらま。イケメンが台無しじゃないか。
「……本当に、いいのか」
「何を今更。オレにはオレのやり方があるから。そしてこれが、オレの考える最善策」
「……わかった」
「うむ。素直な駒は扱いやすいね」
「……はあ」
「カオルどうにかなんないの? 暴れ駒過ぎるんだけど」
「対処法はコズエさんにしかわからない」
「だよねー」
入り口で、あいつがみんなに声を掛けてカードを取るように言っている。
「はい。それじゃあこれね」
「……また不気味なのを作ったな」
「いいでしょ。レンたちとは違って、ちょっと凝ってみた」
レンがボックスから引いたカードは回収して、例のカードを渡す。
「……お前はどうするんだ? このままだったら」
「大丈夫。ちゃんと考えてるから」
男性の方を一枚増やしたんだ。本物のカードを持っている相手が困るだろう。でもそれは、このままいけばの話。
「……あおいさんへはどうするんだ」
「ん? あいつには、レンに渡した分のペアのカードを引いてもらうよ」
「ど、どうやって……?」
「多分残り物引くだろうから、その残りと換えっこする」
「なんでわかるんだ?」
「オレだったらそうするから」
「そ、ソウカ……」
「まあ、もし違ったら早急に対応するよ」
「た、対応って……?」
「……スる?」
「もうちょっとまともな方法考えろよ……」
「大丈夫大丈夫。きっとあいつは残り物引くから」
「どっから出るんだ、その自信は」
「あいつの行動パターンはお見通しなの」
「はあああー……」
レンが失礼なことに、大きなため息をついた。
「……失敗しないでね?」
「それを言うならそっちだぞ。わかるのか。電気を消すタイミングが」
「うんばっちり。すっごいもう、ビタッ! と消してあげるからね」
「ど、どうやって……」
「オレ耳いいからさ? それを使う」
「意味がわからん……」
「電気が消えたら、あいつの目が暗闇になれるまでにその場から離れてね。ただでさえ目立つ髪なんだから」
「わ、わかった」
レンは、心の中で思いました。『髪色に対して、お前にだけは言われたくないけどな』と。
「会場から出て、英語教室で待ち合わせね」
「……そこがイマイチよくわからないんだが」
「大丈夫大丈夫。あと『あれ』持って来てくれた?」
「あ? ああ、持って来てるが……」
「英語教室で貸してね。使う前の実物って見たことないからさ」
「……わかった。それじゃあ、飾り付けに行ってくる」
「はーい。いってらっしゃーい」
そう言うと、レンが軽く手を上げてツリーの元へ歩いて行った。
「……全部。考えてることも何もかも。わかればいいのに」
ただ、つらいのか苦しいのか、楽しいのか嬉しいのか。そんな感情ぐらいしか、今のオレはわかってやれないから。
「(……あ。ちなみにレンちゃん、今回ばかりはお姫様になってもらうからね~)」
囚われてしまったお姫様を、王子様がきっと助けに来る。
「(……あんまり、無理はしないでね)」



