すべてはあの花のために❾


 クリスマスパーティー当日。みんなでパーティー前の準備のそれぞれの動きを把握した後、早速最後の準備に取り掛かる。


「(あれ。チカとあいつ、なんか話してる……)」


 と思ったら、入り口の方へと歩いて行ってしまった。


「(……何かあったのかな)」


 と思ったらすぐに戻ってきた。


「ねえチカ。何かあったの?」

「…………」

「……おい。なんとか言え!」

「うっ……!!」


 何も言わないチカに、鳩尾に一発拳を入れる。


「ねえ、何があったの」

「……別に、何もねえよ」


 そうは言っても、チカはどこか悔しそうだ。


「(……あれ。なんか目つきが鋭い……)」


 何かを決めたような。そんな感情を、瞳の奥に感じた。


「(まあ、あいつに聞いてみよう)」


 そう思って、ムカついたからもう一発チカを殴って、あいつのところに行く。


「さっき何話してたの」


 まあそう聞いても、あっけらかんに「さっきとは何でしょうか?」と返ってくるだけ。


「(チカを見たら、なんかあったんだろうなって思うけど……)」


 こいつを見ても、なかなか判断ができない。それもこれも、あの仮面のせいだ。上手く隠してる。普段だったらわかるもん。絶対。


「(うーん。どうやったらこの仮面、取れるのかな……)」


 そう思って、あいつの顔をじーっと見つめた。


「(うーんダメか。だったら……)」


 今度は、あいつのほっぺたをつんつんしてみた。


「(これもダメ。……でも気持ちいい)」


 癖になってしまいそうだけど、それでも仮面は外れない。


「……嘘だよ」


 わかりやすいわけないじゃん。そんな仮面着けて。苦しいんだろうなってことしかわかんないし。


「嘘。隠せてないっていうのも下手だっていうのも」


 上手すぎるんだよ。自分の感情を押し殺すことが。……言ってって言ったじゃん。口に出したらスッキリするよって。あの時に。


「あんた上手いから、鎌掛けるしかない」


 どうやっても仮面外してくれないなら、こっちが素直になって聞くしかないじゃん。


「何かあったら言って。心配だから」


 そう言ったら、誰だこいつ的な目をされたので、頭を鷲掴みにするけど、力は入れない。だって、本当に心配だから。


「オレじゃなくていいから」


 素直になったら、不安になる。近づいたら……嫌われる。


「アキくんでもチカでも、キサでもいい。困ったことがあるなら、誰かに言ったらいいと思う。みんなあんたのこと心配してるし、何かあったなら助けたいって思ってるんだから」


 オレはあんたのこと、笑わせてやれないから。だから、声に出して。つらいって気持ちを、前のオレみたいに聞いてもらえばいい。


「何かあったら言いなよ。オレじゃなくていいから」


 オレじゃなくていい。オレじゃ、……ない方がいい。
 オレは、あんたを悲しませることしかできない。あんたの気持ちの助けに、オレはなってやれない。


「(まあこいつだって、オレじゃない方が言いやすいだろうし。気持ちも楽に)」


 なるだろうと。……そう、思っていた。


「……ひなたくんでも。いいの……?」


 そんなことを、言ってくれるなんて思わなかった。
 だってオレは、こいつのために表立ってしてあげたことなんてないし、ほぼいじめてるし。みんなとはやっぱり、距離が違う気がしてた。


「ご、ごめん。なんでもない」


 オレもビックリしたのに、言った本人の方がビックリしてるってどういうことだよ。
 ……何。じゃあ気を遣ったわけでも何でもなく。ぽろっと口から、零してくれたの? そんな、言葉を。


「(……やばい)」


 正直言って、めちゃくちゃ嬉しい。なんだこれ。こいつ、オレが喜んでるとか、思ってないんだろうな。


「(……でも、オレは決めたから)」


 何がって? 意地悪することだよ。


「下僕が主人に助けを求めるなんてできると思ってるの?」


 耳元でそっとそう呟いたあと、勝手に手が動いてあいつの頭を撫でていた。


「(めっちゃ中途半端っ……!)」


 だって。嬉しかったんだ。そんな言葉を言ったって。顔は変えらんなかった。


「(体も勝手に動くし。……もう、頼むからそんなこと言わないでよ)」


 あいつから距離を取ったあと、必死で鼓動を静めていた。



「(……あわわわ……)」


 ……熱い。囁かれた耳が。


「(お、落ち着けえぇ~……)」


 そんなことをされた相手も、必死に鼓動を静めてたとは知らずに。