すべてはあの花のために❾


 それからどうやら、皇まで帰ってきたんだけど……。


「(――……ッ、やばいっ……!)」


 スマホを握り締めて家を飛び出した。


「(あいつ。勘違いして……!)」


 アキくんは、あおいの言葉を、あの理事長室の隠し扉から聞いていたんだ。


「(だから。……っ、アキくんはアオイから聞いたわけじゃないのに――ッ)」


 アオイは、……アキくんが好きだから。だからあいつは、アオイが話したと勘違いしている。


『わたしだって、言いたくないことの一つや二つあります! こんなにしつこく聞かれて本当に迷惑なんですよ! もう。……っ、もう! わたしには関わらないでくださいっ!』

『――っ! ま、待て! 葵!』

「(だめだっ。このままじゃ……!)」


 勘違いをしていたままだったら。あいつはますます、自分のことを誰にも話さなくなってしまう!


「(……たぶんっ、あそこに――ッ!?)」


 ――行って、どうする……?
 そう思ったら、ぴたりと足が動かなくなった。


「(……行って、どうするんだ。オレはもう、あいつを笑わせてやれないのに……)」


 精々できるのは泣かせること。オレにはそれぐらいしかできない。


「(……っ。くっそ……)」


 元来た道を引き返す。足取りは、重い。


「(流石にバレる。今の時点でバレてみろ。みんなにぶっ殺される)」


 今のオレができるのは、あいつに近づくことじゃない。


「(……アキくん)」


 勘違いしたあいつが悪い。アキくんは、よく踏み込んだと思う。


「(勇気、つけてあげよう……)」


 週明けのアキくんは、あいつの前では普通に仕事をしてたけど。


「あ~お~い~……っ。ぐすん……」

「(やれやれ……)」


 あいつが帰ったあとは、どん底に落ち込みまくっていた。


「(さて。どうしたものか……)」


 あいつも、申し訳なさそうにしてる時もあるけど、まだアキくんとは話すつもりはないらしい。


「(でも、このままじゃだめだし……)」


 そんなことを思っていたら、あっという間にクリスマスパーティーの前日になってしまった。


「(仕事ついでに、アキくんに声掛けるか……)」


 仕事とは、もちろんパーティーの準備ではなく、レンから引き受けた方。


「(まあみんなを助けるためだと思って。みなさーん、気をつけてねー)」


 案の定高いところが好きな女子たちは、ツリーの飾り付けに行ってくれた。


「(命綱ついてるし、ネットも張ってるから、大怪我なんてしないだろうけど……)」


 ていうか、落ちてくれないと困る。ツリーのところに手紙、置いてるんだから。ちゃんと拾いに行ってよね。


「(……さてと。まあキサのことは庇っていくでしょう。だから、風を受けやすいのはあいつの方)」


 そんなところまで計算しているのか? いやいや。別に、ちょっとひやっとしてくれたらそれでいいし。手紙はもはやスルーでもいい。


「(だって、本番は明日だからねえ)」