すべてはあの花のために❾


 それからあいつが『足掻いてやるんだ』と、そういう話になった時に。


『……きっと。わたしを知ったら。みんな幻滅します。それが。今のわたしにとって。一番怖いことで。みんなのことが。大好きで……』

「(幻滅なんてするわけないのに……)」


 あおいがもし、中途半端に言ってしまったら。それなら、そうなるどころかみんなに恨まれてしまうかもしれない。


「(ちゃんと、口に出して言うんだよ。嘘偽りない本当の話を。そうしたらみんなは……オレの友達は、ちゃんとわかってくれる)」


 本当のところはわからない。オレの希望だし。でも、きっとみんななら。あおいのことが好きなみんなだからこそ、嫌うはずなんてないんだ。


「(あおいがオレらのことを大好きで仕方ないなら、どうしてその逆はないって、考えないかな)」


 でも、ここまで頑固なんだ。深く根付いてしまって、それはもう、なかなか変えるのは難しそうだ。
 あいつの気持ちは、ユズのおかげでだいぶ変わった。運命は、アオイに乗っ取られてしまうことだろうし。決められた道は、あの家に縛られて動けないことだ。


「(道に帰らないといけないと、たとえ運命を変えたとしても、あいつはあそこから逃げられない)」


 それを邪魔しているのが、あおいの考えだ。それはきっと、……オレらが嫌うこと。


「(まあ予想でしかないけど。嫌わないんだってわかってもらえたら、あいつは運命を変えてやれば、あそこから出られると思うんだよね)」


 アオイの人質も、あおいと花咲家の人だ。きっと、考えを変えてやればあいつは助かるはずなんだ。


「(もちろん運命もだけど。そうなったら、道は無理矢理変えなくても、自分でなんとかするだろう)」


 ま。オレが用意してる幸せは、王子が助けに行ってくれる道だけどね。


『その延ばした時間で、わたしの全てはバレないよう、誰かに『わたし』を呼んでもらいます』

「(時間を延ばす? 一体どういうこと。そんな方法アオイからは聞いてないし……)」


 でも何にしても、自分のことを知ってもらえない限り、あいつはあそこから出ようとしないだろう。


「(大丈夫なのに。勇気出してくれたらいいのに)」


 そうしたら、あおいのことをみんなでしっかり守るのに。


『シランさん。『わたし』と提携を結んでください』

『いいね。“ギブアンドテイク”といこう』


 最後に、そう言ってたけど……。


「(どういう。こと……)」


『――もうそろそろシントを解雇しようと思ってます。その時、報酬を皇宛に送ります。シントを、家はこの世から消すことで隠したので、送り主は恐らく警察になるかと。その遺留品として、送ることになるでしょう。届き次第、解雇したシントを迎えに行って欲しいんです。場所はその荷物と一緒に渡します。持って行って欲しいものもあるので、その手紙の指示に従ってください』

『……うん。わかったよ』

『シントを無事迎えに行けたら、絶対にあの家に帰ってこられないよう、縄でも括って部屋に閉じ込めておいてください』

『わ、わかった』

『というのは冗談でもなく本気です。きっとシントは、わたしのことを心配して帰ってこようとしてしまうから』

『……うん。体を張って止めるよ。主に楓が』

『ははっ。頼もしいです。……それで、できればシントを、次期当主候補に戻していただきたいんです』

『そんなことだろうと思ったよ』

『……お願い、できますか?』

『それはいつかな。知ってるのは俺と葵ちゃんだけ?』

『はい二人だけにします。報酬を受け取り次第、実行に移してただければ助かります』

『うん了解。……ほんと、ギリギリの精神状態でよく考えたね。君だけは敵にまわしたくないよ』

『わたしも、皆さんの敵にだけはなりたくありませんっ。わたしの敵は、いつだって家で――』


「(……オレの知らないところで。何かが動こうとしてる……)」


 こればっかりは、シランさんに聞きたいけど流石に無理だ。あいつの口から聞かないと。


「(とうとうシントさん解雇か)」


 一体何を押っ始めるつもりなのだろうか。不安が募る。


「(そういえばあいつ、カエデさん宛に手紙書いてたっけ)」


 中身は知らない。でも、それも動きそうな予感がしていた。