「(……きっつ)」
絵本や花咲家の人から、あいつの本当の両親のことは聞いていた。
「(やっぱり、人から聞くのと本人から聞くのとじゃ、同じことを言ってるようだけど、感情がこもってて……っ)」
当時のあおいの悲しさ、苦しさが直に伝わってきた。
『お察しの通りですシランさん。わたしは恐らく【二重人格者】と、そう呼ばれる者なのでしょう』
「(シランさんには言ったか。それだけ罪の意識があるんだろう)」
そして、それが『厄介なもの』だということも。
「(やっぱり、あいつの中でアオイは悪い奴になってる……)」
アオイが一番大切なのは、あいつだっていうのに。……わかってやって欲しいな。
「(……オレは、アオイも助けるって決めたんだ)」
たとえギリギリになっても、ちゃんとアオイが話せる機会を作ってやろう。
『……『大人になるまで』っていうと、随分曖昧な表現だけど、二十歳であればまだ三年。十八だとしても、優に半年は猶予があるってことか。確か誕生日は夏だったよね』
「(そうだ。だってアオイは、削られるのは一日の中の時間だけだからって言っ――)」
『そんな猶予がないことは、あなたもよくご存じのはずです』
「(――!? どういうこと。しかも、シランさん……)」
『そっちは置いておいて、だよ。君自体のリミットはまだだろう?』
「(……やっぱり、知ってるんだ)」
――時間が短くなる。それは本当だ。アオイが言ってたんだから確かだろう。
でもそれは一日の中の話であって、大人……二十歳というスパンは変わらないはず。
「(……結婚、か……)」
有り得ない話じゃないだろう。あいつは拾われてあそこに行ったが、一応道明寺の娘となってるんだから。
「(だから、皇のような。そういう立場の人間たちなら、あいつの相手を知ってたりするのかもしれない)」
ということは、アオイも知ってるんじゃないか? だって、あおいが知ってるんだから。
「(何があったんだよ、アオイ)」
あれ以来、一向に電話が掛かってこない。心配でしょうがないけど、あいつの顔色とかを窺ってみても、別段悪いとかではないから、寝てはいるんだろうけれど。
『きっと、もうご理解いただけたと思います。アキラくんの誕生日パーティーへ赴いたのが、わたしではなく赤の方だと。シランさんが久し振りに会ったわたしの印象が違ったと思われたのも、それが原因です』
「(やっぱりそうだった。これでまた確証が増えたけど……)」
『これ以上お話しすることができず、申し訳ありません』
「(ここまで、か……)」
正直シランになら、今まで自分がしてきたことを……せめて、皇に対してしてきたことを話すかと思ったけれど。
「(まあシランさんがある程度予想してたところがあるみたいだし、それであいつも話さなかったのかもしれないな)」
もう終わりかなと思ったけれど、シランさんが粘り強く話を聞いてくれた。
「(アオイのことと、花咲家のこと。それから、……絵本か)」
『誰に渡したの。絵本の内容は』
『誰かは、……わたしにもわかりません。ただ、『女の子だった』ことは確かで』
『どういうこと?!』
『な、内容は、モデルがわたしですから『わたし』としか……』
やっぱり……っていうか、そうじゃないと困るけど。あいつはオレのことを、女の子だと思ってる。
「(いや、それでいいんだけどさ。……複雑というかなんというか)」
『その願いを叶えることが、今のわたしの生きる糧なので』
『……ねえ葵ちゃん。まさかとは思うけど、それって家の……犠牲になった人への、罪滅ぼしをしているの……?』
『――――。……流石は、皇の当主で有らせられる方です』
「(……言わない、か……)」
シランさんが食いついてくれたから、言うかなって思ったけど。シランさんの言葉を聞いてから少し、間があった。言おうかどうか迷ったか、家ではなく自分がやったと言おうとしたかだろう。
「(恐らく両方かな。本当は自分がしたと訂正しようと思ったけど言えなかった。きっとそうだろう)」



