「まあ、ちょっとはレンにも協力してもらうようなことがあるから、レンのメンタル強化のために、一個教えておいてあげるね」
「は? な、何をだ」
「あいつ、結婚するか20にならない限り、どんだけ無理しても消えないから」
「え」
こいつは、あっけらかんとした表情でそんなことを言ってきた。
「これは本当の情報だよ? 削るのは、決してその20っていうスパンじゃないんだ」
「……う、嘘だ」
「ほんとほんと。削られるのは、あいつが表に出てこられる時間。それも一日単位の話。まあ、あいつがあいつでいられる時間は少なくなるけど、それでも完全に消滅するわけじゃない」
「ほ、本当に……?」
「うん。だから、オレはレンにこう言う。苦しみながらも、あいつの時間を削らないように努力してくれて、ありがとう」
「……!」
「お疲れ様。よく今まで我慢したね。頑張った分、今からレンは王子に大変身だからね? バトンタッチ。これからはオレが、レンの役目を引き受けるよ」
「…………」
「レンだけじゃないね。カオルと、あとアイと先生。まだあいつを助ける算段は付いてないんだけど、必ず助ける。みんなまとめてだ」
「……。く、じょ……」
「だから、信じてレン。そして協力して。……怖いと思う。でも、絶対にオレがなんとかする。だから、オレについて欲しい」
そう言ってきたこいつが、すごく眩しく見えて。
「(ああ。オレは本当に。助かるのかもしれない……)」
たとえ公安でも、大人はもう信じられなかった。カオルみたいに、盲信なんてできなくて。守ることに必死で。三人が乗ってしまえば壊れてしまうような。そんな危ない橋に、乗ることなんて。できなくて……。
「……大人なんて、信じられない」
「……うん。オレも。信じる大人は、自分の目でちゃんと確かめてからこちら側につけてるから、安心して」
でも、子どもだって信じられないのに。自信たっぷりにそう言うこいつが眩しくて。
石橋を叩いて渡るぐらいの気持ちでないと無理で。…………でも。
「九条」
「ん? 何? レン」
叩かなくったってわかる。何でかなんてわからないけど。
「わた、……いや。もういいか」
「……?」
こいつの前だったらいいだろう。だって、こんなにももう。心が軽いから。
「オレは、お前につく。王子にでもなんでもなろう。……一緒に、あおいさんを助けさせて欲しい」
「……! れん……?」
私……なんて。主に自分を偽るなんてこと、しちゃいけないよな。
「オレを。カオルを。アイさんを。ついでだとしても助けようとしてくれて。今も。助けてくれて。……ありがとう」
「……どういたしまして」
任せよう。お前に。
この儚い少女と。それに巻き込まれた者たちの行く末を――……。
「あ、でも王子なんだから、あいつの前でオレは使わないでね」
「……も、もちろんだ」
……ま、任せよう……?
「あと、ついでって言ったの根に持ってんの? うっわ。小っちゃい男だねレンって」
「……はあ」
任せて。いいんだろうか……。
「ま、最初から拒否させなかったけどねー。これでもダメだったら、レンがあいつのことを小学生の時から監視してたことも言ってやろうかと思ったし」
「なんで知ってるんだ!」
「言ったじゃん。知らないことないんだって。ああちなみに、もう一つの趣味は人の弱みを握って脅すことね。いいでしょー」
「(とんだ奴についてしまったかもしれない……)」
はあと。思わず頭を抱えた。
「ていうか気になってたんだけど」
「ん? なんだ?」
「それ、どうしたの?」
「……ん?」
そう言ってヒナタが指差したのはレンの制服。
「すっごい濡れてる。何? 水でも被ったの? 反省?」
「(あおいさんの、涙と鼻水と涎だろうな……)」
「ねえどうしたの? いじめ? いじめ受けてるの? よかったねー」
「今目の前の奴から受けてるけどな」



