「ていうかレン、アドレス変えたでしょ?」

「は? まあそうだけど」

「なんで変更の分送ってくれないの? さっきも遅かったからメールしたのに、届きませんとか言われて腹立ったんだけど」

「わ、悪い……」


 流石に、彼女と連絡先を交換するのに、あのアドレスのままじゃダメだろ。


「でも、……そっか。引き受けてくれるのか」

「(ん? 嬉しそうなはずなのに……)」


 目の前のこいつの表情が、どうしてか寂しげに見えた。


「まあ引き受けるも何も、レンはオレの駒だし下僕だからね。そして王子(笑)頑張れ」

「(自分で言ったんだぞ王子って。笑うな)」

「でもレン? ただで引き受けてもらおうなんて思ってないからね」

「(脅したくせに……)」

「言ったでしょ? 助けるって。今はまだあそこからは助けてあげられないけど、取り敢えず今すぐにできることから解放してあげるから」

「え。それってどういう……」

「カオルから聞いた。レンとカオル。それからアイの仕事」

「……!!」

「大丈夫。オレはちゃんと、レンのことわかってるから」

「九条……」

「あの二人は、百合の援助を得ること。レンはあいつの監視。それから雨宮先生を入れて監視したりして、あいつの時間を削ること。最終的には桜を飲み込むこと。それをしないと、みんなの立場が、守ってるものが危なくなる。だからレンは、嫌だったけどあいつの時間を減らすことで自分の大切な人を守ってきた」

「……私、は……」

「あいつも、だったんでしょ?」

「――……!!」

「誰からも聞いてないよ。ただ、レンの表情が異常に苦しそうだったから、そうなのかなって思っただけ。そりゃ苦しいよね。守るために傷つけないといけないなんて馬鹿げてる」

「……もう。いやだったんだ」

「うん。この動画で十分わかるよ」

「……それもなんか嫌だな」

「この動画だけで、どれだけレンが、あいつのことを大切に思ってるかなんて、すぐにわかる」

「……!! くじょう……」


 目の前のこいつは、小さく、でもやさしく笑う。


「みんなの仕事。オレが引き受けるよ」

「……!! な、何言ってるんだお前はっ!」

「え? ……みんなの仕事を引き受ける?」

「いや、聞こえなかったわけじゃなくてだな……」


 でもなんでだろう。こいつなら、なんとかしてくれるんじゃないかって。そう思えるのは。


「言ったでしょ? オレはレンに、タダで王子を引き受けてもらうつもりはないんだよ」

「(なんで九条は、そんなに王子に。……オレにこだわるんだ?)」

「レンを苦しさから。つらさから。オレが解放してあげる」

「九条……」

「でも、家での立場もあるから、オレがしたことをレンが報告したらいいよ」

「なんで。お前はそんなに……」

「ん? 大丈夫大丈夫。オレあいついじめるの大好きだから」

「(それはそれでダメな気がする……)」

「……あいつをいじめていいのは、オレだけだ」


 こいつの表情は。言葉とは裏腹に、どこか愛おしいものを見つめているような瞳で。


「(そうか。九条は……)」


 彼女のことが。好きで好きで。……仕方がないんだな。