あいつをあの家から助け出しても、名前を呼ばなきゃ結局は最大でも20までだし。呼んでやったとしても、あそこから出られなきゃ意味がない。雨宮先生と理事長情報だと、あの家がもうあいつの名前を何かしら掴んでて、それを隠してるんじゃないかって言ってた。


「オレは、その名前を見つけて、そしてあの家を一掃する。あそこがそのままだったら、あいつはきっとまたあそこに帰って永遠出られない」

「でも、それはあまりにも危険だ」

「わかってるよそんなこと」

「九条……」

「オレはもう、だいぶ前からちゃんと覚悟してる」

「……そうか」

「それであいつを助ける。……だから、そこを一層すれば、レンもカオルも、アイだって助けられるよ?」

「……! アイ、さんも……」

「全部全部。オレが、あいつのついでに丸ごと助けてあげるよう頑張るからさ」

「……ついで。って……」

「だからレンも、もうつらいことしなくてよくなるよ?」

「……く、じょう……っ」

「言ったでしょ。涙して喜ぶと思うって。でも残念なことに、いくらイケメンといえどオレは、男の涙なんて見ても綺麗だと思わない」

「……逆に思ったら気持ちが悪い」

「まあそうだね」


 それはそれでレンは絶妙に傷ついたらしいけれど。それはさておいて。


「それでレンには、あの胸糞悪い城から、姫を助ける王子になってもらおうと思う」

「……なんとまあ、まるで童話だな」

「うん。だってこの作品若干ファンタジーだもん。タグついてないけど」

「……続けてくれ」

「え? 終わり」

「は?」

「だから、レンに見事あいつを助けてもらう、王子様になってもらいたいんだって」

「…………はっ」

「なんか今すごいバカにされたんだけど」

「なんで私が、わざわざ王子なんかにならなければいけないんだ。九条がしたらいいだろう」

「いやいや。絶対レンじゃないといけないんだって。王子だから」

「いや。私なんかが王子になれるわけな」

「レンに拒否権なんてないよ」

「……出た悪魔め……」


 オレはもう一度レンに、手紙と動画をまた見せる。


「これ。あいつに言ってもいいの? 嫌だよね? しかもバレたら、レンのあの家での立場が危うくなっちゃうんじゃない? どうする?」

「…………っ」

「……オレだって。できることなら自分が助けてやりたいし」

「え? く、九条……?」

「棋士のオレが言うの。レンは王子。これは決定なの」

「……なんて駒使いの荒い棋士なんだ……」

「どうしても嫌って言うなら、あいつにレンの気持ち言ってあげるよ」

「…………」

「オレの口から、あいつにレンの気持ち暴露してあげるよ? よかったねー。気持ちを伝える手間が省けるねー」

「…………」

「(おい。マジで図星じゃん。いつからだよ)」

「……わかった」

「(これで了承されるのもなんか嫌だな……)」

「お前がそれでいいなら、王子でも何でも引き受けてやる」

「うん。だから、この手紙のことも動画のことも黙っておくよ? 安心し」

「 引 き 受 け て や る 」

「裏切らないとは限らないから、これは大事にオレが保管しておきます。悪しからず」

「……こんの、悪魔……!」


 レンが睨んでくるけど、オレはスマホを見てそれをさらりと躱しておいた。