朝のHR前に何故か彼女が、何事もなかったかのようにオレの教室に来た。しかもどうやら委員長に用があるみたいで、クリスマスパーティーの参加者の集計を頼まれた。
 偽りの姿だったら、いくらでも言葉が出る。彼女にだって、自然に触れられる。時々頬を赤くしている彼女がかわいらしくて、……このまま一緒に、どこか遠くへ行きたくなる。
 たくさんの人に参加してもらいたいと、そう言う彼女は本当に生徒会の仕事が楽しいみたいだ。それを、オレは心から応援したい。


『(……花、か)』


 それを、ツリーに飾るのだそう。
 儚く散って枯れる姿を、どうも彼女に重ねてしまう。それが嫌で、落ちた視線でプリントの文字を読んでいたら。


『(ダンス……)』


 後夜祭では踊れなかった。


『ここの、ダンスのところを見ていたんです。あなたと踊れたらいいなと』


 ほんの少し、そう思っただけなのに、彼女が顔を赤くする。……いつもこうなんだろうか。だったら、生徒会の人たちはみんな、こんなかわいい彼女をいつも見ているんだなと、少し羨ましくなった。


『けれど、私にはできないことはありませんよ』


 クラスのみんなを参加させてみせますよ。あなたがそれで、喜んでくれるなら。オレは、何だってできる。


『……じ、じゃあ金曜日の放課後また結果を伺いに来るので。それまでに集計をお願いします月雪くん』


 月雪、か……。あまりこの名前は好きじゃなかった。


『蓮で結構ですよ。道明寺先輩』


 それも、あるけれど。でも彼女に、オレの名前を。ただのレンであるオレを。見て欲しかった。
 そしたら彼女も『……あの、『道明寺』も長くて言いにくくないですか? 『先輩』まで付けたら余計に……』なんて言ってくるもんだから。


『……では、あおいさんと。そうお呼びしても?』


 アイさんがそう呼んでいたから。オレが口に出したら彼女がまたすごいビックリした顔をする。
 でも、そんなのも楽しくて。彼女と偽物で話している時は、罪の意識が。最低なオレが。心の隅の方に追いやられて。気が、幾分か楽だった。

 それから、生徒会の三人が登校してきた。彼女はまだ違うクラスにも行かなければいかないみたいで、彼らが来て早々立ち去ろうとしていた。


『うん! じゃあねあーちゃん!』

『頑張れよ』

『じゃあね下僕』

『それではまた金曜日、お待ちしてますね。あおいさん』

『はい。オウリくん、チカくん、ヒナタくん、レンくんっ』


 オレが、彼女が下の名前で呼び合ってることだけで異様に突っかかってきた。本当に彼女はいろんな人に愛されてるんだなと、嬉しい反面。……そんな彼女に酷いことをしてる自分が、本当に最低だなと実感した。


『手を繋いで一緒に走って登校する仲ではありますかね?』


 ま、この三人をいじって気を紛らわすのも、ちょっと楽しかったりするけど。


『(行ってください。まだお仕事が残っているんでしょう?)』


 目でそう言うだけで彼女は気づいてくれて、頷いてくれたから小さく礼をした。


『もお! れんれんのせいであーちゃんいなくなっちゃったあ!』

『氷川。あおいさんはまだ仕事の途中だったんだ。その邪魔をしちゃいけないだろう』

『それはいいとして。なんだよ、手繋いで登校したのかよ!』

『ああ。少し前、一回だけ登校がギリギリになってしまったことがあって。その時あおいさんにお会いしてたんだ』

『それでなんで手、繋いでんの』

『パンを咥えたあおいさんとぶつかってしまって、引っ張り起こして、そのまま二人で走ってきたんだ』

『え。あ、あーちゃん。今時……』

『結局のところ私の体力がなさ過ぎて、あおいさんに引っ張ってもらっていたな』

『ユッキー。そこはもうちょい頑張ろうぜ……』

『でも言った通りだろう? 間違っちゃいない』


『そうだねえ~』『ったく、焦ったし!』って言いながら、氷川と柊は教室の中へ入っていった。


『レン』

『ん? なんだ、九条』


 いつになく真剣にオレの名前を呼ぶから、どうしたのかと思った。