すべてはあの花のために❾


『それはそうと、レンくんはどうしてここに? ここまで監視?』

『……本当は。したくなんて、ないんですよ』


 そう言って、手紙を取り出す。それはもう、……見るだけで不気味なものだ。


『……これは?』

『渡したくなんてない。……こんな。彼女を傷つけるようなことなんて。……っ。私は、したくないんです』

『ええ。十分わかってるわ』

『……でも。こうして彼女を傷つけないと。彼女は。守れない、から……』

『え。……れ、レンくん?』

『どうして。……守りたい彼女を傷つけないといけないんですか。どうして私は。こうしないと彼女を守れないんですか……っ』

『レンくん……』

『私には。ここまでしか。できません……っ』

『え。……ちょ、レンくん……!?』


 そう言って、コズエさんに手紙を押しつける。


『すみませんコズエさん。……わかってるんです。でも。どうしてもできない……っ』

『レンくん……』

『私の代わりに。渡してください。お願いします……!』

『……一応、預かっておくわ』

『…………』

『少し、相談したいし。それから決めるわね』

『……はい。ありがとう、ございます』

『それに今、彼女は見られる状態じゃないから』

『……え』


 今、コズエさんはなんて言ったんだ……? 


『……こずえ、さん……?』

『あ。……何でもないわ。気にしないで』

『彼女に、何かあったんですか』

『………………』

『……そうですよね。こんな遅くまでいるし。おかしいなって思ったんですよ』

『……れんく』

『何があったんですか』

『……彼女は今、眠っているわ』

『眠って……?』

『……正確に言えば、過呼吸で倒れた』

『……!! なんで……』

『………………』

『え。まさか……』

『スマホを見て、おかしくなったの彼女。カオルは、メールだと言っていたわ。それを見たからだろうって』

『――――』

『あなたかアイくんのどちらかで、アイくんは彼女の連絡先は知らない』

『……っ』

『でもレンくん? あなたはこうすることしかできなかった。だからしょうがないの。気に病むことは』

『彼女を倒れさせてまで。そんなことが言えますか……?』

『……っ、レンくん……』

『……もう。いやです……』

『レンくん……!』

『もう。放っておいてくださいっ……!』


 謝りたかった。本当に。心底から。直接会って、『ごめんなさい』と。
 でも、……できない。したらもう……。今度こそ彼女が。危なくなってしまうっ。


『(もう。どうすればいいか。わからない……!)』


 どうやって家に帰ったのかわからない。ただ目が覚めたら、部屋の床に倒れていた。


 ――――――…………
 ――――……


『……はい。彼から手紙を預かったんです。でも彼、すごくつらそうで……』


 彼が帰ったあと、コズエは理事長に、手紙のことを相談していた。


『もう彼らも限界みたいです。手は尽くしているんですが、如何せん……』


 頭を抱えた。しつこい奴が、もう少し自分じゃなくて彼らに時間を割いてくれたら……と。


『……はい。わかりました。また手紙を渡すようなことがあれば連絡します。……起こしていただいて、ありがとうございました。失礼します』


『はあ……』と、コズエは大きなため息をつく。


『……わかっててもできないことが、一番苦しいわね』


 コズエは手紙を持ち、自分の病室へと戻ったのだった―――。