すべてはあの花のために❾


 それから彼女たちが来て、隣町へは、彼女たちが乗った次のバスを使って移動した。


『……恋に。落ちて。みたい……』


『……あおいさん……』

『…………』


 彼女の悲痛な叫びは、オレらの心にもぐさりと突き刺さる。


『(……っ、でも。オレは……)』


 しなければいけない。しないと、彼女を守れないっ。

 百合の病院へと移動した彼女たちを、オレらは下の駐車場から見守った。


『コズエさん、ここにいたんだね』

『家に潜り込むために、わざと大怪我を負ったそうです』

『え。……なんでレン、そんなこと知ってるの?』

『理事長と少しお話しする機会があって。彼は、私たちの立ち位置をコズエさんから聞いていたみたいです』

『そうなんだ。……そっか。だからコズエさんは、あんなに傷だらけなんだね』

『それだけの覚悟があると、そういうことでしょうか』

『覚悟があるだけじゃ、あの家に勝てっこないよ』

『……そう、ですね』


 そんな会話をしながら、スマホを握り締める手に力が入る。


『……メール、送らないの?』

『……。私は……』

『レンがしたことも、しようとしていることも。今の自分にできる、彼女を守る方法』

『……アイ、さん……』

『最後の授業、テストなんだ。だから、俺はもう行かないといけない。……レン? たとえあおいさんが、レンのしてきたことや俺らがしてきたことを知っても、きっと嫌いになんてならないよ』

『……そんなの。わかりません』

『そうだね。俺の希望的観測だ。でもね、『どうして?』って聞いてくれると思う。何か理由があるんじゃないかって。……そう聞いてくれる、やさしい人だと思うよ』

『……やさしいには、同意します』

『そっか。それじゃあ行くね。頑張ってレン』

『はい。……満点頑張ってください』

『ははっ。……うん。余裕だよ』


 苦しかった。なかなか文章を打っても、最後の送信が押せなくて。


『……あの、突然すみません。私の代わりに、送信ボタンを押してもらってもいいですか?』

『え? は、はい……?』


 結局押せなくて。通りがかった人に、内容は見せないようボタンだけ押してもらったけれど。


『(……ごめんなさいっ……)』


 その後また、そこからしばらく動けなかった。



『……あと、は。これも、なんとかして渡さないと……』


 ……あれ? でも、どうやって渡せばいいんだろう。彼らが出てきた気配はないから、まだ病院にいるんだろうけど。


『……ていっても、もう日付変わりそうだし……』


 彼らは、ここに泊まるのだろうか。ていうか、それまで動けなかったのかオレ。


『……はあ。コズエさんが、いい感じに出てきてくれると有難いんですけどね……』


 重い腰を上げ、彼女たちがいる10階の待合室で、コズエさんが出てくればいいなと。そう思ってた。


『……え。れ、レンくん……?』

『……コズエさん』


 なんてタイミングいいんですか。ていうか、まだ心の準備ができてないんですけど。


『……レンくんも、つらいわね』

『……一番つらいのは、彼女で』

『そうね。でも、あなたもつらいもの。だから、あなたたちを私はなんとか助けてあげたいの』

『……助けてくださいとか。言えたらいいんですけど』

『レンくん……』

『でも、怖いんです。もしバレてしまったらって思うと。オレが傷つくならいい。でも……っ』

『……きっと、助けが来るわ』

『……そうだと、いいですね』


 手紙が入っている方の服を、グッと握る。