すべてはあの花のために❾


 何かしてないと、彼女のことや二人のことを考えてしまいそうだったので、当日は茶事に付きっ切りになることにした。


『にしてもレンって着物も似合うんだね。知ってた? 女子たちが茶室の王子って言ってるの』


 前の委員長が家の用事で学校を辞めて、新しくオレが委員長なんかになることになってから。九条が『ヤレ課題を写させろ』や、『ヤレ何時に起こせ』だとか。ハッキリ言ってしつこい。


『それよりも、お客様に茶菓子出さなくていいのか?』


 きっと先客というのは彼女のことなんだろう。氷川が嬉しそうに駆けて行くなんて彼女ぐらいしかいないし、何より九条もいつもと雰囲気が違う。


『……レンは、いいよね』

『どうしたんだ?』

『……ううん。なんでもない』


 なんで九条がこんなことを言ったのかなんてわからない。オレは、どちらかと言えば、お前の方がいいなと思っていた。

 それから初日が終わって、カオルから《メール送ってくださいねえ》って連絡が来たから、その合図とともに彼女に送った。

 二日目は、どうやらアイさんしか来ないらしい。困ったな……。あんまり二人になりたくないんだけど。でも、コンテストは見に行ってあげようと思って見に行ったら。


『(……ア~イ~さ~ん~?)』


 完全に、暴走しまくっていた。
 何してるんですか。嬉しいのはわかりますけど。


『(はあ。人とキスしてる姿なんて、見るもんじゃないですね……)』


 しかも二回してるし。暴走しすぎでしょ、あの人。これも全部カオルのせいだから、今度会ったら一発おみまいしておこう。
 アイさんに会わないよう、オレはバンドを見るために講堂へと移動した。その彼女の歌声に聞き惚れはしたけれど……。


『(……なんて、儚いんだ……)』


 バラードを歌っている彼女はもう、今にも消え入りそうだった。


『(……スマホ、鳴ってる……)』


 相手はアイさんからだった。……あんなことがあった後で、彼とどうやって向き合っていいかわからなかった。


『(……すみません)』


 気づかない振りをして後夜祭にも参加したけれど、彼女の姿はすぐになくなってしまって、正直つまらない。
 後夜祭が始まって、ペアの相手を捜すのなんて億劫だった。誘われたって、断って。……ほんと、何してるんだか。

 ただ捜した。彼女を。
 ……でも、見つからなかった。見つけられなかったんだ。オレは。


 その日の夜、コズエさんから連絡が来た。どうやら今、生徒会の人たちは全員、五十嵐組にいるようだった。


『(え。……明日、ですか……)』


 明日の休みに、どうやら彼らは隣町に行った後、百合の病院まで行くらしい。


『(動けるのは、オレとアイさん……)』


 気まずい。非常に厳しい状況だ。


『(コズエさんは、百合の病院にいる……? ああ、そういえばまだ眠ってるって設定でしたね)』


 どうやら彼らがお見舞いに来るらしいから、そこにいないといけないんだとか。


『(《カオルには絶対に言うな》……ハイハイ。でしょうね)』


 まだ彼女以外と接触するのは不味い。
 文化祭は、結局どうしたのかわからないけど、カオルが例の薬を持って出ていたので、それを使ったんだろう。


『(もう、オレがするしか……)』


 メールだけで、いいだろうか。どうすればいいかわからない。


『(……傷つけてしまったら。ごめんなさいっ)』


 手紙を書こう。自分が思ってることと正反対のことを。


『(ごめんなさい。……ごめんっ。なさい……)』


 必死に。心の中で。そう彼女に、ひたすら謝った。