すべてはあの花のために❾


『ビッグニュース! ビッグニュースですよお!』


 今日は久し振りの話し合いだ。もちろん、あのコズエって人はいない。
 なんで久し振りなのかって。それは、カオルがあの人につきまとって、話し合いどころじゃなかったから。まあ、アイさんと二人は気まずいっていうのもあったけど。

 それで、ビッグニュースというのは、どうやらコズエさんがオレら側の人間だということだった。そんなこと、オレはもうとっくの昔に知っていたけど。


『ぼくたちのこと、助けてくれるかもしれないんですう!』


 そう言われたって、この家に縛られている人がどれだけいるか。


『ここだけの話ですよぉ? コズエさんは、警察も警察ですが、その公安に所属してるみたいですぅ。ここに来たのは、スパイとして潜り込んで、ここを内側からやっつけるためみたいなんですう』


 そう言われても、もう大人の言うことなんか信じられっこない。たとえ公安だったとしても、いつコロリと寝返るかわからないからだ。


『それでも、やっぱりコズエさんだけじゃ大変なので、ぼくたちも協力をして、家にバレないように彼女に情報を渡す必要があるみたいなんですけどね……』

『何それー。そんな危ない橋渡らずに、なんとかしてくれないのー……?』

『それほどに、やはりここが危険みたいなんですぅ。コズエさんも手が出せないみたいでえ……』

『それでカオルは、コズエさんに協力するんですか?』

『はあい。もう誓いのキスまで済ませて来ちゃいましたぁ』

『『(……コズエさんかわいそうに……)』』


 でも、そんな危ない橋渡れっこない。だって、アイさんとオレが渡ってみろ。もしバレたりなんかしたら、他でもない彼女が危ない。
 やっぱりそれが気がかりなのか、アイさんもその話は聞かなかったことにした。オレも、そんな不安定な橋は渡れないと、聞かなかったことにしてその時は断った。


『でもそっか。カオルがそうなると、文化祭を利用してあおいさんとお話しするのは無理かなー』

『いえいえ! これはアイさんのお願いですからね! ぼく張り切っちゃいますよ~』

『はあ。……私は何をしたらいいんですか』

『あ! 手伝ってくれるんですかぁ? そうですね……。算段はもう付いてるので、レンくんは彼女にメールを送ってくれると助かりますう』

『……メール、ですか……?』


『あ! いいな! 羨ましいっ!』と言ってるアイさんは放っておいて。

 どうやら、アイさんをミスターコンに出場させる予定らしい。ていうか、オレも知らないのにどこから手に入れたんだろうその情報。あれかな、『理事長→コズエさん→カオル』だろうな、多分。


『その前に、なんとかして彼女にも出てもらうようにちょこっと悪戯をする予定なんです』

『あんまり酷いことはダメだよ、カオル』

『わかってますよぉ。でも、彼女を少し傷つける程度でなければ、危ういのは誰なのか。わかりますよね』


 時々こうやって、ふざけてない口調のカオルは、いつも芯が通ってて凜々しい。


『レンくんは、どうやらちょっとメンタルキてるみたいなんで、ぼくたちの補助に回ってもらえればと思います』

『え? ど、どうしたの、レン……』

『いえ。どうもしませんが、そう言ってもらえると助かります』


 資料の件を引き摺ってることを、カオルは気づいていた。からわざと、オレには楽な仕事を回してくれた。協力という形で、極力少ないダメージで彼女を傷つけたことにさせてくれた。
 アイさんも心配そうにオレのことを見てきたけど、『大丈夫ですよ』と一言入れて、カオルの続きを促した。


『レンくんには、【また明日ね】ってメールを送ってもらえれば十分ですう』


 初日に彼女に接触し、ミスコンに出てもらうようにさせるから、改めて送るようにと。そういうことらしい。


『ただそれだけでしたら何もダメージがないので、不気味にしてくださいねえ』


 ただでさえ、知らないアドレスから届いたメールだ。なんで明日のことを知ってるのかと。彼女は、恐怖を覚えるだろうからと。


『……そ、れは……』

『レンくん。一番つらい役目はぼくが背負います。必ずです。誰もレンくんがやったなんて知りません』

『カオル……』

『でも、あなたも協力はしなければいけないでしょう? そうなったら、彼女の時間を削ることを選ぶか、心への小さいダメージを選ぶか。そのどちらかしか、ぼくはないと思うんです』

『……わかってます』

『レン……』

『そうですか。それでは、アドレスは入手済みなので、後で送っておきますね?』


 どちらが傷つかないか……なんて。両方に決まってる。
 カオルは、オレがこの間彼女の時間を削ってしまったから、心の方を、これから助けるように協力を求めてくるだろう。……いいや、カオルがするのはここまでだ。カオルは、今回で彼女に接触はしなくなる。


『(これからはオレが。彼女に仕掛けないといけないのか……っ)』


 そう思ったら、すぐにでも縋りたくなる。そんな、危ない橋のはずなのに。吸い込まれそうになってしまう。


『(そうなったら。もしバレたら。誰が彼女を守るんだ……)』


 もう、どうしたらいいのか。自分が、どうしたいのか。わからなかった。