すべてはあの花のために❾


『……ありがとうな』

『(ん? 誰か、いる……)』


 落ち着いた頃、やっとまわりの音が聞こえだした。……ダメだな、相当キてる。


『お前さんは、このままでいいのか』

『(……朝倉、先生……?)』


 一体誰と話しているのかと思って、少しだけ近くに行って聞き耳を立てた。


『あの人の願いを叶えるだけで、本当にいいのかって聞いてる』

『……そうですね。わたしには、そうすることしかできないので』

『(……この。声は……)』


 すぐに話をしているのが彼女だと思って、ギリギリの距離を保つ。勘がいいらしいから、誰かがいるとわかれば声さえ発してくれないかもしれない。


『わたしも、変わりませんよ。……恐らく、ずっと』

『(……変わらない、か。オレも、きっと変われない。もう、あそこに囚われたままだ。でもきっと、オレなんかよりも……)』

『……はあ。本当は、お前さんが一番苦しいだろうに』


 朝倉先生がそう呟いた声が聞こえた。先生も彼女のことを知っているんだろう。


『(オレは、このままでいいんだろうか……)』


 このまま、あの家の思い通りに動いて、彼女を消すことばかり。……っ、そんなこと、したくなんてないのに。


『(……でも。オレには何もできることなんてない)』


 オレはいい。もういっそのこと家族だっていい。だからどうか。……せめて。


『あの人だけでも。……っ。オレは。助けたい……っ』


 最低なオレが、助けることなんてできないのだろう。でも、……そう願わずにはいられなかった。

 家からまた警告が来た。でももう、オレは監視なんてしたくなかった。


『レン、このままだとご両親が……』


 そう心配してくれるアイさんと、二人でいるのは少し気まずかった。それはこの想いに気づく前からだけど、気づいた後からはもっと気まずい。


『でも、ちゃんと西を使ってはいます。私は、辛うじて背く意思がないとわかれば、それでいいです』

『でもお、それでも警告が来たということは、本当に危ういと思うんですう』


 どうやら、連帯責任で二人にも警告が来ているらしい。……でも、それは不味い。


『(アイさんに警告が行ってしまうと、彼女が危なくなってしまう……)』


 薄情な息子だと思う。でも、オレの今の頭の中は彼女しか考えられなくて。彼女をなんとか助けてやりたいってことしかなくて……。

 そして夏。またオレたちは呼び出された。


『呼び出した理由は、わかってるわよね?』


 そう言いながら、オレを睨むように見てくることだってわかってた。


『別に、家に背いているわけではありません。私には私のやり方があります』

『家には背いていないつもりかもしれないけれど、削りたくないということだけはしっかり伝わってくるのよねえ』


 当たり前だ。誰が好き好んで、大切な人の時間を短くしようと思うのか。


『……目が変わったわね』

『……?』


 そう言ったような気がした。そしてエリカさんは、……すごく愉しそうに嗤った。


『……そう。気づいたの』

『……な、にを……』


 エリカさんは、一度オレから離れた。


『どうやらレンくんが使えないようだから、二人にもできるところは監視をお願いするわ?』

『私では不十分だと言いたいんですか』

『ええ。その通りよ?』


 それから、監視にはコズエさんも加わることになり、本当に彼女に友達ができてしまったことや願いを叶えていることを隠せなくなってしまいそうだった。