すべてはあの花のために❾


『(あんなの、本当の彼女の笑顔じゃないのにな……)』


 ずっと見ていたんだ。それぐらいわかる。ああして壁をつくって、親しい人間を作ってしまわないようにしてるんだろうなって。……わかってるけど、痛々しかった。


『(生徒会。か……)』


 入学式の次の日、彼女が生徒会に選ばれた。近しい人間を作ってはダメだから、きっと断るもんだと思っていたのだけれど……。


『(……あ、れ。なんで……)』


 お披露目式には彼女の姿があった。
 真っ直ぐな瞳。ぶれない意思が、そこから十分窺える。


『(でも。そんなことをすれば、また今度は彼らが……)』


 それでも、どうして彼女が生徒会を選んでしまったのか知りたかった。だから、理事長なら何か知っているんじゃないかと思ったんだ。


『やあ、月雪蓮くん。来ると思っていたよ』

『――!! ……どういう、ことですか』


 どうやら、コズエさんは実は公安で、先にこの人と手を組んでいるらしかった。それからわざと怪我を負い、あそこに潜入したことを詳しく聞いた。
 ……そして、オレがあちらの人間であることも。月雪なんてもう、潰れた会社だったってことも。


『君も、つらいね』

『……コズエさんから、聞いたんですか』


 どうやらオレが置かれている立場も、彼は知っていたらしい。
 もちろんオレは話してないし、家も話していないだろうけど……まあ、多分カオルから聞いたんだろう。


『どうして彼女が生徒会に入ったか、知りたいんだろう?』

『……そこまでお見通しなんですね』

『まあね。……でも、君には話しておこう。邪魔はしないだろうから』

『何を――』


 そこでオレが知ったのは、罪滅ぼしという名の『願い』の話。


『そ、そんなことをしたら。彼女の時間が減ってしまうかもしれないっ……!』

『でも、選んだのは彼女だ。彼女が選んで、進んで彼らのために自分の時間を使うことにしたんだよ』


 しかも彼女はただ、彼らにどこか欠けている部分があるから、手を貸したいと決めたらしく、『彼らが犠牲者』だということには気付いていないらしい。


『(名前を知っているのは、もう一人か……)』


 仕事を任され、彼女の体を奪おうとしている相手。理事長はそのことも知っているらしく、家にももう一人にもバレないように、彼女は罪を償うつもりでいることを話した。


『……友達。って……』


 だから助けたいんだと。だからその『願い』を叶えるんだと。……彼女の意志は、固いらしい。


『そんなの。あの子のようになってしまうかもしれないのに……』

『……月雪くんも知っているんだね。その子のことを』


 ここでオレが報告してしまったらもう、お終いだ。彼女も。……彼らも。
 でも、知っていることを報告しなければ。それが、……家にバレてしまったらっ。


『君が、どうしたいかだよ。月雪くん』

『……私、は……』


 どうしたい……? そんなの。彼女のことを。応援したいに決まってる。


『……今のことは、聞かなかったことにします』

『そうか。ありがとう』


 そうして、理事長に礼をして部屋を出て行こうと思ったら。


『君は、このままでいいと思っているのかい』

『……そんなの、だいぶ前からこのままじゃダメだってわかってますよ』

『月雪くん……』

『私には、この道を進むことでしか、大切な人(、、、、)を守ることなんてできないんです』


 そう言って、理事長室を出ていったけど。


『……きっと君の元にも、説得が行くと思うよ』


『今は、追いかけ回されて大変そうだけどね』と、理事長が呟いていたなんて知らなかった。