『あら? 返事がないわねえ。あなたたちに拒否なんてできない。……まだわかってないのかしら?』
そう言って、エリカさんはまずはカオルの目の前へ足を進める。
『……なんですかねえ?』
『拒否しようものなら、あなたの家族を、会社の人たちの命が無くなるわね』
『……そうですよねえ。そうだと思いましたよ』
『(カオル……)』
そのあとエリカさんは、カオルの耳元でこう囁いたらしい。
『それから。あなたの大事な大事なあおいくんも。……どうなるか、わかってるわよねえ?』
それを聞いたカオルは、『……はあ。わかりました。やればいいんでしょう?』と、いつもの軽い口調で言っていたが、どこかつらそうだった。
そのあとエリカさんはアイさんの前へと足を進めた。
『あおいくんも、やっと道具として扱ってあげるんだから、ちゃんと使えるようになってよぉ』
『……っ』
『逃げようものなら。わかってるでしょう? ……あなたのお父さん、殺しちゃうから』
『……!』
ここで初めて知ったんだ。アイさんのお母さんは、エリカさんじゃないことを。
『それから、あなたが大好きなあの子も、痛い目に遭ってもらおうかしら?』
『……もう。遭ってるじゃないですか』
『精神的にはね?』
『……。っ……』
そのあと、アイさんにも同様耳元でこう話したらしい。
『……後でお父様から、と~っても素敵なお知らせがあるから。それをちゃんと聞くのよ?』
皇を引き込むには彼を使えばいい。でももし、ひょんなことからその婚約が破棄された場合、アイさんも候補として扱われていた。……いいや。もうアイさんは確実だったんだ。皇は、ついでにできることならもらってしまおうと。思っていたんだろう。
……そう。どちらかと言えば、今縁談が成立している方が、保険だったんだ。
それから最後に、エリカさんがオレの前にやってくる。
『レンくんも、わかってるでしょう? お利口さんだものねあなたは。もし逃げようものなら』
『私の家族と社員を消すんでしょう』
『……!! レン……』
『レンくん……』
『ええ、そうね。よくわかってるわね?』
『(消されるのは確かに困る。流石に実の両親の死に際に、こんな早く直面したくはないし)』
でももう、あんなことをさせられていたんじゃ、死んだも同然だ。オレには、あまり守る意識なんて、そんなになかった。
でも、そんなことを思っていたら、目の前のエリカさんが愉しそうに嗤った。そして、オレにも耳打ちをしてくる。
……何を隠すことがあろうか。もう、オレが監視してたことだってバレた。仲が良かった二人にだって、幻滅されたに違いない。
『あなた。あの子のこと、気になってるでしょう』
『……はい?』
何を言い出すかと思えば、そんなこと……。
『あら。もしかして自覚なし?』
『……何のことですか』
『まあいいわ。よろしく頼むわね?』
『……わかってますよ』
この時はまだ、わからなかった。自分の、心の奥底に広がり始めた感情に。



